シベリア その②ガナサン人、ドルガン人

 今回はシベリア最北端の旧タイミル自治管区(2007年にクラスノヤルスク地方と統合され、タイミル・ドルガン=ネネツ地区となり消滅)に居住するシベリアの民族の服装について述べていきます。もっとも、この地域にも居住しているネネツ人は前回述べたのですが。


 なにはともあれ、まずは、ガナサン人について紹介します。

 ガナサン人は北極海に突き出たタイミル半島の先住民族です。人口は八百人~九百人ほどで、狩猟やトナカイの飼育、漁業や毛皮貿易などに従事しています。宗教はアニミズム、シャーマニズム、東方正教を信仰しています。

 ガナサン人の民族衣装はネネツ人の影響を受けている部分があり、ガナサン人も前回述べたマリチャを着用します。他の衣服には、フード付きの前閉型の外衣(パルカ)、毛皮の外衣ソクイなどがあります。ソクイにもフードがついているのですが、フードの縁飾りにはトナカイの臀部の毛皮を使います。それも、尾の毛皮の下半分を残したまま仕立てるので、完成したものを着用すると、丁度ピクミンのような感じになります。ピクミンで言うと触角? が尾ですね。

 ガナサン人の脚衣・ナタージニクもまた、ソクイと負けず劣らず工夫あふれる衣服です。ナタージニクは胴の部分をスエードの紐で締めて着用するのですが、内股の部分に縫い目がこないよう仕立てられているので、履き心地が良いのです。


 次はドルガン人についてです。彼らはクラスノヤルスク地方のトゥルハンスク地区(この地は毛皮貿易の要衝であり、流刑地でもありました)に移住してきたヤクート人やエヴェンキ人、エネツ人(いずれの民族も後で触れる予定です)などが混血したことで誕生した民族です。そのため、成立したのも19~20世紀と、結構遅め。主にトナカイの遊牧によって生計を立てていて、宗教はテングリズム(テングリ崇拝)、シャーマニズム、東方正教を信仰しています。

 ドルガン人は男女ともに毛織物製の外衣(ソンタプ)を着用します。もっともソンタプだけで済ませるのは比較的暖かい時期だけのようで、冬はソンタプの下に北極キツネやウサギの毛皮のシューバを着用します。また、時にはガナサン人のソクイとパルカと同じものを着用するそうです。


 ……ちょっとこのままでは文字数が物足りない感じなので、前述の私が今読んでいる本「シャーマンの世界」とあとシベリアの金枝篇とも称される名著「シャマニズム」を参考に、シベリア諸民族の世界観について簡単に述べていきます。

 まず、世界は

 

 天界

  |

 地上(人間や動物の世界)

  |

  地下界(死者の世界)


 という風に分かれています。更に、天界は3~16層、地下界はだいたい七層に分かれているとされています。天界も地下界も地上同様に川や山があるとされています。つまり地面があるということですが、小さな穴を通って地上から天界へ行くこともできます。

 もっとも、地上と他の世界では違うところもあります。例えば地上と地下界では全てが逆になっているのです。地上の右は地下界の左、地上の夜は地下界の昼、というように。そのためこの地域のシャーマンは暗くなってから術を行うそうです。

 また、地上において壊れているものでも、地下界においては壊れていないものとなります。これはつまり、地上において壊れていないものは、地下界においては壊れていて使用できない、とも言い換えることができます。そのため、副葬品として納められるものは故人が地下界で使用できるように、あえて壊されたり傷をつけられます。

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