シベリア その①ネネツ人

 今回からしばらくシベリアの諸民族の民族衣装について述べていきます。今回はネネツ人の民族衣装についてです。

 読者様の中にはシベリアもロシアの一部では、と思われる方がいらっしゃるでしょう。しかしシベリアは広大で多くの民族が暮らしているし、歴史を考えたら、スラヴ系のいわゆるロシア人の民族衣装とネネツ人の民族衣装では、共通している部分は少ないだろうからいっそ分けることにしました。では早速、まずはネネツ人がどういった民族かについて述べていきます。


 ネネツ人は主に、北極海に面した西シベリアのヤマロ・ネネツ自治管区で暮らしています。森林ネネツとツンドラネネツという経済基盤が異なる二つのグループに分かれていて(ただし現在は第三のグループが出現しつつあるそうです)。言葉はロシア語の他にサモエード諸語に属するネネツ語を操るのですが、前述の二つのグループがそれぞれ操る言葉は幾分かの違いがあり、別の言語だとされることがあるのだとか。宗教は、シャーマニズムとロシア正教を信仰しています。主な生業は狩猟に農業、トナカイの遊牧です。


 まず、ネネツ人の伝統的な衣服は主にトナカイの腱を糸として縫い合わせた毛皮からでできていて(19世紀の終わりごろから、綿や毛織物製の既製品の脚衣を購入するようにもなりました)、以下のような工程で作られます。


 1.捕獲した獣や遊牧している獣を解体します

 2.皮をなめします

 3.ナイフで革(=なめした皮)を裁断し、縫い合わせます


 ネネツ人において(も)裁断と縫製は女性の仕事とされています。かつてのネネツにおいては針は大変貴重なもので、もし折れると非常に嘆き悲しんだそうです。アイヌがそうであったように、針は交易を介して入手するものだったのかもしれませんね。

 一方、骨や木、白樺の樹皮の細工や彫刻は男性の仕事でした。ネネツの男性は移動用の円錐形住居(チュム)の飾りやトナカイ橇に鞍などの狩猟や遊牧に必要な道具だけでなく、食卓に匙に容器、雪払い具などを自ら作るそうです。

 

 ネネツ人の男性の民族衣装には、以下のようなものがあります。


 マリチャ

 ・トナカイの毛皮から、毛を内側にして仕立てられる、頭巾と手袋がついたアノラック(=イヌイットのアウターウェア)のようなもの。着用の際は素肌の上に直接羽織り、帯を締めます。また、丈は膝下まであるのですが、帯を締める際に裾が膝上になるよう少し服を持ち上げます(着物のおはしょりみたいなものですかね?)。また、マリチャの表=革の部分が汚れないよう、上に綿や毛織物性の服を重ねます。

 ・裕福な人は上等な毛色と毛並みのものを選んでマリチャを仕立てたそうです。稀にラッコの毛皮(ラッコの毛皮は最高の毛皮と呼ばれていますが、過去の乱獲などの影響で現在ではほぼ入手することはできません)の帽子を付けることもあったそうです。

 ソヴィク

 ・特に寒い日や雪の日に、マリチャの上に羽織る衣服です。マリチャとの差異としては、毛が外側に来るよう仕立てられることと、手袋がついていないことが挙げられます。

 手袋

 ・トナカイの脛カムスから、毛が外側になるように作られます。手首あたりには切れ目が入っていて、弓矢を扱うときなどに手を出せるようになっています。

 脚衣

 ・丈は脛の中ほどまであり、上から下記の長靴を履きます。もともとはトナカイのなめし皮から作られていたのですが、上述のように綿や毛織物性の既製品が着用されるようになり、やがて皮製のものは日常生活では着用されなくなったそうです。

 長靴ピビ

 ・長さ60cm余りの、トナカイの脛から作られる靴です。靴底にはトナカイの蹄の下の皮セクトが用いられています。


 ちなみに、3~4歳の子供はマリチャに毛皮製の靴下がついたロンパース(赤ちゃんがよく着ている、上下一つなぎになったアレです)・パルキを着用するけれど、5~6歳からは大人とほぼ同じ仕立ての衣服を着用するそうです。


 女性特有の衣服には、以下のようなものがあります。

 パニ

 ・マリチャ同様トナカイの毛皮から仕立てられ、手袋がついた前開き型の衣服です。トナカイもしくは狐の尾の毛皮から作られた低い襟もついています。ラッコや狐の毛皮で縁取りすることもあったそうです。また、年配の女性は夏にパニもしくはパニによく似た衣服を毛織物から仕立てたそうです。夏服ということですかね?

 帽子サワ・ネ

 ・白いトナカイの柔らかな毛皮から作られ、ビーズや色とりどりの細い布、音の出る金属製の下げ飾りなどで飾ります。この帽子は女性にとって重要なものです。

 晴着

 ・男女とも晴着は普段着と比較して装飾が多いのですが、特に女性は豪華に飾ります。まず、肩と袖に赤や青、黄色や緑の細長い毛織物をつけます。また金属の飾り板、鈴、小さな鐘、ビーズ玉なども付けることがあったため、こういった飾りの総重量は5kgに達することもあったそうです。


 この他、女性ももちろん長靴などを装着していたでしょう。

 

 それでは皆様、良いお年を!

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