ヨーロッパ その⑪ドイツ

 今回はドイツ南部バイエルン州と、南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州の山岳地帯シュヴァルツヴァルト(ドイツ語で「黒い森」を意味します)の民族衣装について述べていきます。

 ドイツの民族衣装といえばディアンドルですが、実はオーストリア、スイス、リヒテンシュタイン、イタリアのといったアルプス山脈に接する他の国でも見られるものだったりします。また、ディアンドルはドイツ全土ではなく、最南端のバイエルン州でみられる民族衣装なのだそうです。あと、女性の民族衣装であって、男性の民族衣装ではありませんからね。ドイツ南部の男性の民族衣装がどんな感じなのか、気になりますよね! というわけで、以下でまずはバイエルン州の民族衣装について述べていきます。


 バイエルン州含むドイツ南部の民族衣装は、カトリックかプロテスタントかで色合いが異なるそうです。カトリックは明るい色を、プロテスタントはくすんだ控え目な色を好むのだとか。なんというかイメージ通りですよね。事実、バイエルンの男性の民族衣装の上衣は、白い綿布のシャツに毛織物のベストと上着を組み合わせるのですが、ベストの色が濃い緑だったり、黒だったり、鮮やかな赤だったりするそうです。

 またこのベストは金属製のボタンや、ブレード(テープ状の紐)の縁取りで飾られたりもしています。加えて、伝統的な手織りの絹のネクタイ+ブローチやネクタイピンもしくは黒いベルベットのリボンを襟元に付けるそうです。加えて、装身具として金銀細工のメダル型の首飾りも付けるのだとか。おしゃれですね。また、後述のズボンを締めるベルトにも金銀細工のメダルが装飾として用いられるそうですから、統一感があっていいですね。

 上着は、これまた毛織物製で丈は短め。立襟で、ゆったりとしています。色は、全体との調和を考えて選ぶそうです。他、日曜日と祝祭日には銀のボタンを付けた黒や濃い色の毛織物の丈長の上着を着用するそうです。

 ズボンは伝統的な皮革製、もしくは糸の密度が高く丈夫なビロード製。このズボンにはアップリケや刺繍が施されています。ズボンの丈は膝の上あたりまでと短めですが、毛糸で編んだ長い(膝下までの)ストッキングを穿き革靴を履くので、肌が露出することはありません。

 そして最後に、フェルト製で濃い緑色の帽子を被ります。この帽子は縁が狭い円錐形をしていて、先端を内側に押しつぶしたり、羽根飾りにメダル、ブローチや花などで飾って装着するそうです。


 バイエルンの女性の民族衣装は、色使いの他はカトリックかプロテスタントかの違いが存在しないようです。バイエルンの女性の民族衣装ってつまりディアンドルなんですが、そもそもディアンドルがどんなものかご存じない方もいらっしゃるでしょう。というわけで、以下で詳細を述べていきます。

 まずディアンドルとは基本的に胴衣ボディス+ブラウス+スカート+エプロンによって成り立っています。もちろんストッキング(甲の部分に房飾りが付いている)やパンプスタイプの靴を着用し、帽子を被ったりもするのですが。

 胴衣は前開きで袖なし、襟が深くカットされています。材質はベルベットや毛織物など。ビーズ刺繍やボタン、ブレードで華やかに飾られます。ブラウスは白いウールから仕立てられ、膨らんだ袖は半袖の長さです。

 スカートは丈がふくらはぎもしくはくるぶしまでで、襞が寄せられています。裾を刺繍や錦織のリボンテープで飾り、張りやボリューム感を出すのが特徴です。

 スカートの上に付けるエプロンは白もしくは色柄もの。祝祭日にはレースやリボンで飾ったり刺繍を施したりしたシルクのものを着用するそうです。アクセサリーとしては真珠や宝石、金銀細工のネックレスや、メダルを下げたペンダント、豪奢なベルトを装着します。被り物は、かつてはアザラシの皮製のものを使用していたのですが、現在では男性と同じフェルト製の濃い緑の帽子(ただし縁があり、幅広です)に毛皮や花などを飾っているそうです。


 お次はシュヴァルツヴァルトの男性の民族衣装について。シュヴァルツヴァルトの民族衣装もカトリックかプロテスタントかで違いがあります。シュヴァルツヴァルトの場合はそれが主に帽子の色に表れているようで、同じフェルト製でもプロテスタントならば黒くて縁が広いものを、カトリックならば黒以外の色の帽子を着用するそうです。

 帽子以外のシュヴァルツヴァルトの民族衣装は一般的に、白いシャツ+毛織物製で立襟の、黒もしくは濃い緑のチョッキ+ネクタイの代わりとしてリボンを結ぶ+ジャケット+長ズボンor黒い革製のキュロットと白くて長い靴下+短い革靴で成り立っています。キュロットは革のバンドで膝の下で留めます。またジャケットは、カトリックの場合は下襟と見返し(前身頃の端の裏側の部分のこと)に鮮やかな赤を用いるそうです。


 シュヴァルツヴァルトの女性の民族衣装にも、カトリックかプロテスタントかの違いがあります。もちろん地域の差もあるのですが、それ以上に宗教による差が大きいそうです。

 まずプロテスタントの場合は、ピケ織り(表面に畑のような畝が出る織り方のこと)の黒いシルクの縁なし帽を被ります。そしてその上に見事な刺繍がほどこされた白地・黒地以外の柄物のビロードを被せ、更にその上に半径20cmほどの白い台座を付けて、顎の下で黒いリボンを結び固定します。台座の上には七個から八個のボンボンを付けます。ボンボンの色は既婚の場合は黒で、未婚の場合は深紅のものが用いられます。もっともこの台座は宗教的な行事の際にのみ被られるもののようですが。

 祝日の際に被る頭飾りはカトリックにも存在します。それが、環状の頭飾り・シェペルクローネンです。正装の際は赤いシルクのレースやオーガンジーのリボンを蝶結びにしてしっかりと固定し、更にこの頭飾りの後ろの下側から模様が織り出された幅広のリボンを二本垂らすそうです。

 カトリックかプロテスタントかの違いは他にもあります。シュヴァルツヴァルトの女性の民族衣装の、被り物以外の要素を比較すると、以下のようになるのです。


         プロテスタント              カトリック

 上着   襟元まで覆う黒ビロードのコルセットベスト   無地のベルベット

ブラウス          ―            ブレード飾りのある立襟

シュミーズ 白地で半袖。袖は大きく膨らんでいる         ―

エプロン  純白のサテンで、ギャザー入り        柄物のシルクサテン地

スカート  ロング丈のプリーツスカート       ふくらはぎ丈かくるぶし丈                    

                          で、ゆったりしている


 となっています。カトリックの上着には前見頃や袖口にコード刺繍(特殊な糸やリボンやテープを布地に縫い付ける刺繍のこと)が華やかに施されてもいます。

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