ヨーロッパ その③バルト三国

 今回はバルト三国の民族衣装についてです。バルト三国とはその名の通り、バルト海東岸にならぶ三つの国のことを指します。北から順にエストニア、ラトビア、リトアニアとなっています。

 ちなみにバルト海といえば、岸に琥珀が打ち上げられることでも知られています。なんと世界の琥珀の八割から九割にかけてがバルト海沿岸で産出するのだとか。そのため琥珀はヨーロッパでは、人魚の涙が結晶になったものと信じられていたそうです。なんだかロマンチックですよね。

 そしてこの琥珀はアクセサリーはもちろん、室内装飾にも用いられていました。また、バルト海の琥珀は紀元前1000年頃という想像もできない遙か昔から、「琥珀の道」というバルト海とエーゲ海を繋ぐルートによって、遠くはエジプトまで運ばれてもいました。やっぱりロマンチックですよね。


 バルト三国の民族衣装は互いに似通っています。男性の衣服は上衣、脚衣、帯、チョキ、ジャケット、外衣、帽子、手袋、靴下で成り立っています。女性の場合は上衣、スカート、前掛、チョッキ、外衣、帯、靴下、手袋です。さらに、未婚の女性は花冠を、既婚の女性は髪を覆う被り物を付けます。 

 バルト三国の民族衣装に欠かせないのが、大きな金属製のブローチです。バルト三国では、装身具には魔力があると信じられていたのだそうです。

 また、模様を入れて編まれた毛糸の手袋(や靴下)はお守りでもあり、温かい季節でも帯に挟んで持ち歩かれていたそうです。結婚を控えた女性は婚礼の贈り物として手袋を何組を編んでいたのだとか。


 では、以下からエストニアの民族衣装について見て行きましょう。

 エストニアの民族衣装は、もちろん地域差はあるものの、基本的な構成は同じなのだそうです。しかし、中には他と際立って異なる服飾の地域もあります。ムフ島がそうです。

 ムフ島の伝統衣装はまず、施される刺繍が独特です。ヨーロッパの民族衣装に施される刺繍といえば、技法的には簡単だけれども(やったことあります)、幾何学的な美と魅力を醸し出すクロスステッチが多いような気がしますよね。←はなんの根拠もない偏見ですが……。しかしムフ島には、ムフ刺繍と称される、花や植物を極めてリアルに描く刺繍が受け継がれているのです。ムフ島の伝統衣装は、ムフ刺繍で靴やポケットに至るまでを飾っているのだとか。

 他、アコーディオンプリーツのスカートも、この地方の衣裳の特徴の一つとなっています。プリーツを熱いパンを用いて付けるところも含めて。なお、ムフ刺繍を施したブラウスと上記のプリーツスカートはムフ島の花嫁衣裳でもありました。


 話しをエストニア全体に戻しますね。まず、男性の衣服は立て衿か折衿の麻の上衣(サルク)を脚衣プクシッドにインし(南エストニアでは上に出すそうですが)、帯を締め、その上に黒ラシャの丈が長い立襟のカフタン(クーヴ)を羽織る、となっています。冬ならば更に羊の毛皮のコートを重ねるそうです。頭には、夏ならばフェルト製の縁なし帽子を、冬には耳覆いがついた毛皮の帽子を被ります。

 エストニアの履物は男女共通です。古くは靴下と木靴か樹皮製のわらじだったのですが、十九世紀末には革製の靴やブーツがメインになったのだそうです。


 エストニアの女性の民族衣装は、袖が膨らんだ丈が長い麻の上衣(カイセッド)にジャンパースカート(サラハン)かスカート(セーリック)を合わせ、帯を締めます。既婚の女性ならば更に前掛けプゥルをつけ、刺繍入りの帯紐を締めたり、短い上着を着用したりしたそうです。

 被り物もまた既婚か未婚かで違いがあり、未婚の場合は後ろにリボンを付けたヘアバンドのような花冠(ウェイク)を被り、既婚ならばナイトキャップのような帽子(タヌ)で髪全体を覆ったのだとか。

 アクセサリーとしては、襟元に付けるブローチ(ソルグ)と、金属の鎖や琥珀のネックレスやブローチが挙げられます。他、祭日にのみ着用する民族衣装として、白か黒、茶胃の羊毛製で、縁を色布か刺繍で飾った肩掛スイバがあります。ただしこの肩掛は、二十世紀にはウールのスカーフに取って代わられたそうです。


 お次はラトビアの民族衣装について。ラトビアの民族衣装は後述するリトアニアの民族衣装に似ているそうです。ただし、女性は前述のエストニアの女性が付けるような円形のブローチ(サクタ)を留めます。

 他の特徴として、女性のブラウスには白糸刺繍(白い糸のみを用いる刺繍のこと)や、赤や他の色の刺繍を施すことが挙げられます。また、幅広い布を用いた女性用の肩掛(サヴシャ)には、様々な着用パターンがあり、これをブローチ(サクタ)で留めます。なお、祭日の際は三個から九個のハート型のブローチ(サクタ)を畝に下げたそうです。祭日のサクタは、ハート型という形と多く付けることによって、着装者に魔力を授ける力があると信じられていたのだとか。

 なにはともあれラトビアの民族衣装の最大の特徴は、リエルワールデ帯というバルト神話やラトビアの自然――つまり、キリスト教化される前のラトビアの土着の宗教観が反映された腰帯でしょう。


 最後はリトアニアの民族衣装についてです。

 男性の服装は麻の上衣(マルシュキニアイ)の裾を麻かラシャの脚衣(キェルニェス)にインして帯を締めます。その上にボタン付きのチョッキを着たり、更にその上に折衿のジャケットを羽織ったりします。麻の丈が長い上着(スヴィタ)を着用したり、冬にはラシャのカフタン(セルミヤンガ)を着用したりしたそうです。帽子はフェルトの縁なしか、鍔付きのものを被りました。伝統的な履物には木靴(クルンぺ)や、樹皮の靴があり、特に木靴は人気があったそうです。他には、十九世紀半ばからは革製の半長靴も穿いているようです。

 女性の服装は上衣(マルシュキニアイ)、幅広のスカート(ショナス)、前掛(プリュオーステ)、刺繍入りの帯(ユオースタ)、チョッキ、上着(コフタ)、ラシャのカフタンと被り物が基本形となります。帯はチョッキの上に締めることもあったそうです。靴は靴下の上に、木靴か革靴を履きました。

 被り物はエストニアのものと同じですが、装身具に用いられる素材は銀や琥珀の他に、珊瑚やガラスが用いられていました。リトアニアでは古くから琥珀を材料としてバックルやブローチにネックレスがペンダントが作られていました。特に琥珀のネックレスは、青年が女性に愛と誠意の証として贈る、伝統的なアクセサリーでもあります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る