アフリカ その②ケニア・タンザニア

 今回はアフリカ大陸東岸・スワヒリ地域――現在のケニア、タンザニア、モザンビークの沿岸地帯のうち、ケニアとタンザニアの、特にムスリムの民族衣装について述べていきます。

 スワヒリ地域の文化では服飾は極めて重要な位置を占めています。これはスワヒリ地域以外のアフリカの多くの地域でも同じで、布地が貨幣として用いられていたほどですが。

 スワヒリ地域は、衣服を十分に与えなければ妻を得られないという意味のことわざがあるほど、衣服が重要視されています。要するに、スワヒリ文化における衣服は、他の文化における婚資(結婚に際して、花婿側から花嫁側に贈られる財産のこと)として認められるに足る、貨幣的な価値を有しているのです。同時に、妻にみすぼらしい恰好を指せるということは夫の財産か愛情、もしくは両方が欠如していることと等しいという価値観も表しています。また、特にスワヒリ地域の海岸部では服はそれを纏う者の身分を表していたそうです。


 スワヒリ地域の男性の服装は、女性の服装よりも西洋化が進んでいます。祝祭もしくは礼拝の際に着用されるカンズという、イスラーム圏に多くみられる貫頭衣もありはしますが。しかし現在ではポロシャツとズボンを普段着とする彼らは、コフィアという縁なしの、東アフリカでよく見られる帽子を被ってもいます(コフィアとは、スワヒリ語で「帽子」という意味なのだそうです)。ただしこのコフィアも、スワヒリ地域に広く浸透したのはここ百年ほどのことなのだそうです。

 上記の服装=身分というルールにより、十九世紀末の奴隷制廃止まで、スワヒリ地域の奴隷はコフィアを被ることが許されなかった。ために解放後、その過去を払しょくするかのごとく、コフィアが被られだしたのだとか。このほかには、漁師など海と関係する仕事をしている男性はミシリもしくはシュカという腰巻を身に着けるそうです。


 スワヒリ地域の女性の服装は、他の文化圏の影響が濃い男性のものと比較すると、この地域の特徴を残しています。女性の服で最も一般的なのはカンガという巻き衣です。カンガは二枚の布から成り立っていて、一枚は頭を含めた上半身を、もう一枚は胴から下を覆います。柄は二枚とも同じだったり、別々だったりと様々です。

 カンガに付いて特筆すべきなのは、贈り物としての役割です。カンガは祭りやお祝い事の際、男性から女性に贈られます。その贈られるカンガには贈り手から相手への気持ちが託された、スワヒリ語の格言が記されているのです。

 他のスワヒリ地域の女性用の衣服には、薄手の(カンガよりも薄い)女性用の巻き衣・カニキと、カンガの上に着用する黒い外套・ブイブイがあります。カニキはかつては奴隷用の衣服だったのですが、現在は女性用の作業着とされていて、都市部以外ではたまに着用されているそうです。

 ブイブイは既婚女性が外出する際に纏う外套で、その様子が蜘蛛に似ていることからスワヒリ語で蜘蛛を意味するブイブイという名が付いたそうです。またブイブイは、敬虔なムスリマの証ともされています。

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