西アジア その⑧エジプト

 今回はエジプトの民族衣装についてです。エジプトは古代エジプト時代から、上エジプト(ナイル川の上流。現在のカイロ南部からアスワンあたり。地図で見れば南のほう)と下エジプト(現在のカイロ南部から地中海までのデルタ地帯。地図で見れば北のほう)に地理的、文化的に分かれています。

 上下のエジプトは気候もまた異なっていて、下エジプトは地中海性気候に属し雨も比較的多いけれど、上エジプトは比較的乾燥していて、気温の差も激しいそうです。また、上下のエジプトの中でも、エジプトの国土のほとんどを占める砂漠か、そうでないかでは気温や乾燥の度合いに差が生じるでしょう。そういう訳で、エジプトの民族衣装にも当然のように地域差があるのですが、概ねデルタ・ナイル川付近のものと、砂漠・オアシス地帯のものに大別できるようです。更にここに男女の違いも加わります。では、早速以下でそれぞれの地域の民族衣装について述べていきます。


デルタ・ナイル川付近の地域の民族衣装

男性の場合

 ガラビーヤ(ワンピース型の長衣)とスィルワール(綿のズボン)が基本的なスタイルです。他に、冬にガラビーヤの上に羽織る上着「アバーヤ」、長方形のショール「タルフィーハ」という衣服があります。また頭には、頭にぴったりとした小さな帽子「タキーヤ」を被り、その上に1m×2mほどの大きさの白くて薄い布「シャール」もしくは厚手の格子柄の布「クフィーヤ」を巻きつけます。タキーヤは夏には綿糸製の、冬には毛糸が用いられるのですが、これは汗を吸収させるためでもあります。

 ガラビーヤは夏には薄い木綿製で明るい色のものが、冬にはウールや毛織製の濃い色のものが好まれるようです。視覚的にも涼しさや温かさを求めているのかもしれませんね。また、冬にはガラビーヤを数枚重ねて着用したりもするそうです。

 ガラビーヤには幾つかの種類があり、その中でも最も伝統的なタイプの、袖口が広く、喉元から胸の半ばまでに至る切り込みが入ったものは「ガラビーヤ・バラディー(エジプトのガラビーヤ)」と呼ばれているのだとか。ガラビーヤ・バラディーは通常「スィデーリ」というベストの上に着用するそうです。

・スィルワールは踝までの長さがある白い綿製のズボンですが、ガラビーヤもまたそれと同じくらいの丈があるため、通常は外から見えることはありません。スィルワールの腰の部分は紐かゴムで絞り、裾には簡単な装飾が施されることもあるそうです。

・アバーヤの色は黒か茶色で、厚手のウールか毛織の生地から仕立てられます。首回りや胸の部分に刺繍や縁飾りが施されることもあるそうです。アバーやは長方形の布の左右両側を折って肩の部分を縫い合わせ、腕を通すスペースを空けるという、非常にシンプルな構造をしています。


女性の場合

・男性同様にガラビーヤを着用し、あと頭には四角形の布「イシャルブ」と、更にその上に薄く細長い帯状の布「タルハ」を重ねて着用します。巻き方は様々ですが、イシャルブを三角形になるよう二つ折りにして額に当て、後ろ髪の下で交差させて額で結び、そしてタルハを被るというスタイルが一般的なようです。他、外出時には「ハバラ」もしくは「ミラーヤ」という大きな布で身体全体を覆うこともあります。

・女性のガラビーヤは地方によって胸や裾の部分のデザインが異なるようですが、素材はいずれも色鮮やかな綿布が用いられることが多いそうです。また、外出の際に上から重ねて着用する黒い(もしくは黒っぽい)ガラビーヤは「ガラビーヤ・サムラー(黒いガラビーヤ)」と称されていて、サテンや絹布から仕立てられるそうです。


砂漠地帯・オアシスの民族衣装

男性の場合

・砂漠で暮らす遊牧民の男性の衣服は、上記のデルタ・ナイル川付近の地域のものとあまり差がないようです。ただし、中には上記の衣服の腰の部分にヒザームというベルトを巻き、頭に前回までで述べたクーフィーヤを歌舞し、プラスチックやビニール製のイカールで固定する人もいるそうです。


女性の場合

・チュニック型の、黒地に刺繍や装飾を施した踝丈の、Aラインを描くワンピース「トーブ」を着用し、腰には男性同様にヒザームを巻き更に大きな飾り布「フータ」で全身を覆います。更に、「ブルクゥ」という顔覆いで顔を覆うこともあります。

・トーブは黒い頑丈な綿やサテンから仕立てられ、胸の前に縦の切り込みが入っているものが多いそうです。袖のデザインは地域によって異なっていて、オアシスの女性のものは細い筒状の長袖がほとんどですが、ベドウィンの女性のものは幅広だったり三角形だったりと様々なのだとか。また、胸部や袖、裾には刺繍が施されるだけでなく、コインや貝殻、ボタンなどを縫い付けて飾ることもあるそうです。

・刺繍やコイン、貝殻で装飾されるのはフータも同じです。フータは頭から肩に垂らして着床します。

・ブルクゥは頑丈な頭帯の部分とその真ん中の額の部分から垂れる薄手の布の顔覆いで成り立っています。顔覆いの部分はこれまた貝殻やコイン、ビーズが飾られます。ブルクゥを飾るコインが、持ち主の財力のバロメーターとして機能する地域もあるそうです。


 また、エジプトの女性ももちろんアバヤや二カーブ(顔覆い)を着用することがあります。

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