西アジア その⑦モロッコ

 今回はモロッコの民族衣装についてです。

 モロッコの文化はその歴史から、アラブ、そしてフランスの影響を多く見られます。しかし民族衣装においてはベルベル人(北アフリカに四千年以上前という古くから住んでいた先住民族のこと。なお、アラブ人が北アフリカに侵入してきたのは七世紀以降のことになります)の要素が色濃く残っているのだとか。

 ちなみにベルベル人の衣服には


・ベルトをせず、ゆったりとしたチュニック型

・フード付きの外套

・巻き衣


 という三つのタイプがあり、いずれも古代ローマ時代まで起源を遡れるそうです。


 モロッコの民族衣装は上記の理由により独特のスタイルになっているのですが、特に特徴的なのは男女問わず着用する、フード付きの丈が長い外套ジェッラーバと頭から体全体を覆う巻き衣です。


 ジェッラーバは男女問わず着用するといっても、元々は男性のみの衣服です。女性がジェッラーバを着用するようになったのは、1912年のフランスによる保護領化および、それに伴う衣服のヨーロッパ化の後の事。モロッコではジェッラーバが、他のイスラーム諸国におけるアバヤのような役割を果たしているそうです。

 女性がジェッラーバを着用する場合、フードは被らずスカーフ(ズィーフ/フーラルと称される)で髪を覆うことが多いそうです。ですがフードを被り、更にレターム/ネガーブと称される顔覆いを着用することもあるのだとか。

 男性の被り物には、タギーヤという縁なしのかぎ針編みの帽子や、タルブーシュという羊毛製の赤いフェズ帽があり、それらの上にモスリンの小さな薄い布・レッザを巻くこともあるそうです。


 ジェッラーバは既に述べたようにフード付きの丈長の上着で、形は男性のものと女性のもので差はありません。胸にはV字型の切れ込みがあり、身頃の前と両脇にはスリットが入っています。フードは、冬であれば形を整えて被ることが多いけれど、それ以外の季節だと被らず後ろに垂らしている場合が多いようです。

 生地は薄手の綿から厚手の毛織物まで、季節によって様々です。色はその時の流行に左右されますが、柄は無地あるいは縞柄が一般的なのだとか。しかし女性用の場合は、もっと派手な柄のものもあるようで、本にはヒョウ柄のものが載っていました。きっとどこの国のマダムもヒョウ柄が好きなんでしょうね。


 ジェッラーバの下には、男性ならば丈長のシャツ・ガミース(これは女性も着用します)や、フレンチスリーブ(袖付けの切り替えがない、身頃から続いてカットされた袖のこと)で足首までの丈のローブ・ガンドゥーラ、及びセルワールというゆったりとしたズボンを着用します。近代以降は、男女ともにジェッラーバ+洋服という着こなしをすることもあるそうです。

 また冬は、ジェッラーバの上にこれまたフード付きの、ケープ型の外套セルハムを着用します。セルハムは頭頂に飾り房が付いているのが特徴です。


 女性の場合はジェッラーバの下に、ガミースの他にカフターンという前開きの長衣を着用します。カフターンは……名前からどんなものか大体想像できますよね! 

 カフターンは元々男女ともに着用されていたのですが、モロッコにおいては女性用だけが残ったのです。現代モロッコのカフターンはシンプルな木綿のものから、刺繍や縁飾りが施された豪華なものまで、素材もデザインも様々なバリエーションがあります。   


 モロッコの巻き衣には、ハイクもしくはクサーと称される縫い目のない、男女両方が着用するものと、イザールという女性のみが使用するものがあり、それぞれ巻き方が異なります。もっとも、その巻き方にも地方差があるのですが。

 更に、モロッコ第四の都市であるマラケシュの南に位置する都市タルーダントでは、ハイクとイザールの巻き方を組み合わせた方法で着用される巻き衣があります。この独特の、黒い綿製の巻き衣「タメルハフト」は女性用です。

 ハイク(クサー)は男性用の場合は多くは白い毛織物の布から作られますが、地域によっては濃紺や黒、縞柄のものもあるそうです。大きさは、長辺が6m以上にもなります。女性用の場合は明るい色の薄手の綿布や毛織物が用いられ、大きさは各人の好みや体型に合わせます。

 イザールは分厚い絹や羊毛製の布を裸体に巻く場合と、透明な絹などをガミースやカフターンの上に巻く場合があるそうです。


 モロッコの履物には、皆さんも一度は聞いたことがあるだろう、かかとを踏んで履くスリッパ状の革靴・バブーシュと、ブルガというサンダルがあります。これらはいずれも男女ともに使用します。

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