西アジア その③トルコ

 今回はトルコの民族衣装について述べていきます。

 トルコの民族衣装で最も親しまれているのは、トルコ帽とも称される鍔なしの帽子フェズ(ターブーシュ)ではないでしょうか。フェズは一般的には円筒形(女性用のフェズには丈が低い、円盤のような形のものもあります)で、赤か臙脂色のフェルトで作られ、黒い絹糸の房が天辺に付けられています。フェズはそのまま被ったり、男性ならばターバン、女性ならばヴェールやスカーフの下に被ったりと、男女関係なく用いることのできるアイテムです。


 トルコの男性の民族衣料にはフェズの他に、ターバンやカフタン(長衣)、シャルワール(ズボン)が挙げられます。他、上衣(ゲムレック)、オチクル(紐帯)、イエレック(チョッキ)、ジャケット、ヒルカ(半コート)といった衣服があるそうです。という訳で、以下ではこれらのうちカフタンとシャルワールについて述べていきます。

 カフタンは実はトルコだけで着られる服でも、また男性だけが着用する衣服でもありません。カフタンのような前開き型の長衣(和服もここに含まれます)はアジア全域でみられる衣服なのです。

 カフタンはオスマン帝国時代の宮廷では最も重要なアイテムだったそうで、礼服として、あるいは外国の使節への贈り物として用いられていたそうです。当時の宮廷のカフタンにはイェンと呼ばれる、床を擦りそうなぐらい長い補助袖が付いていて、式典ではこの補助袖に接吻させていたのだとか。

 

 シャルワールは極めて特徴的なズボンで、これまた男女ともに着用します。胴回りは非常にゆったりとしているものの(婚礼衣装のシャルワールは一見ギャザースカートに見えるほどです)、足首では窄まっています。

 このスタイルの背景には、アナトリア半島の冬の寒さと、騎馬民族の末裔であるというトルコの歴史が関わっています。天幕で過ごし、床に座り、馬にも乗る騎馬民族の生活は、ズボンでなければ耐えられなかったのです。

 ゆったりとしたシャルワールは内側に空気をたっぷりと含むことができるため、防寒に役立つ一方(裏地を付ければ更に温かくなります)、肌に布地が張りつかないので夏は涼しく着ることもできます。更に窄まった裾は砂塵の侵入を防ぐこともできるのです。


 次は女性の民族衣装について。

 現在は政教分離していますが、トルコがイスラームの国です。そしてイスラームの女性といえば、身体のラインを極力出さないような服を真っ先に連想する人も多いでしょう。ですが、同じイスラームの国や地域でも、どの程度「覆って隠すか」にはそれぞれ違いがあるようでして……。


 顔も体も完全に覆う→アラビア、アフガニスタン

 身体は覆うが、顔は覆わない→イラン

 上半身のみを覆う→西部トルキスタン

 顔だけを覆う→チュニジア

 目の部分は覆わない→モロッコ


 というように大別できるようです。もっとも上記の国だって、時代や地域によって違いがあるのでしょうけれどね。そしてトルコは、頭部こそスカーフで覆うものの、身体全体は覆わないという、イスラーム圏では隠す部分が最も少ない服装に分類されます。これは農作業を行うためなのだそうです。

 トルコの女性の民族衣装は、アンテリ/エンタリ(上衣)とシャルワール(ズボン)とベルトと、あと上記のスカーフによって成り立ちます。ただ、これらはいわゆる表着(衣服を重ねる時、一番上にくるもののこと)で、上衣の下にはギョムレクというチュニック型のシュミーズを、シャルワールの下にはディスリクというアンダーパンツを着用するそうです。なお、ギョムレクは部屋着としても用いられるのだとか。

 上衣は両脇や(袖が付いていれば)袖口が大きく開いた前合わせ型の衣服で、上にのみボタンがついています。かつて宮廷では男性もカフタンの下に着用していたそうです。

 トルコの女性の上衣の興味深い所は、室内では袖なし、屋外では長袖付きのものを着用するところ。なぜなのかは特に記載されていなかったのですが、温度調節のためなのでしょうか?


 胴に締めるベルトは金属製もしくは布製で、ハンカチや帯を挟んだりします。はたまたハンカチや帯の上に締めることもあるそうです。そして色模様を編みこんだ毛糸の靴下をはきます。女性の靴は皮紐で縛るタイプの、平べったい革製のものを履くところが多いそうです。


 トルコ女性のスカーフは、刺繍や伝統の縁飾り「オヤ」で飾られます。オヤは簡単にいえば、スパンコールやビーズなどを編みこんだり編みこまなかったりする手編みのレースです。

 オヤの興味深いところは、モチーフが感情と結びついているところ。四つ葉のクローバーならば結婚願望、林檎の花は楽しい気持ち、赤唐辛子は妻の不満などなど。かつてのトルコの女性は、オヤに託して自分の感情を伝えたのです。

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