南アジア その②ブータン

 今回はブータンの民族衣装についてです。ブータンは法律で成人が外出する際は民族衣装を着用すべしと定められている、恐らく稀有な国です。

 ブータンの国土の大半は山地で、また四季があります。そのため民族衣装は山地での活動に適し、なおかつ移設や昼夜の気温の変化に適応したものとなっています。


 ブータンの布の原材料は植物由来なら木綿や麻、イラクサ。動物由来ならば野蚕に羊毛、ヤクの毛など。野蚕の糸は家蚕の者に比べると強い傾向があります。ブータンでは宗教上の理由により、蚕を殺さないように繭から糸を採るそうです。他、現代ではもちろん化学繊維も用いられています。

 ブータンでは編み物はほとんど発達しなかったようですが、染織の技術は素晴らしく、織の中では最も複雑と言われる技法を得意としています。その技法「片面縫取織」から、ブータン人が最も複雑だと認識している技法「ティマ」が発達していったそうです。

 他、平織や綾織などの技法を用いて、仏塔チョルテン永遠の絆ドラミユデユランなどの、チベット仏教に由来する文様を織り込んでいきます。


 ブータン人男性の衣服のうち、最も知られているのは着物に似た前開き型の上衣「ゴ」でしょう。ゴはチベットの長衣に似ていて、表地は野蚕の絹か毛織物、裏地は木綿の布を用いて仕立てられます。重量は約1.5kgほどあります。このゴを、これまた着物と同じように羽織り、幅5cmのケラをしっかりと締めるのです。

 なお、ゴを着用すると着物でいうおはしょりの部分ができるのですが、この部分には仕事用のドツム、木綿の布で包んだ木の碗、大きな竹製の弁当、銀製の小箱など、様々な物を入れるそうです。足は、膝までの靴下に短靴(足を踝辺りまで入れるタイプの靴)などを合わせます。

 ブータン人男性は、城に行く際や式典に参加する際、カムニという肩掛けを掛けないといけないそうです。カムニは幅90cm×450cmの野蚕の絹糸製の織物で、色の違いによって位を表します。一般人ならば白、臙脂色ならば県知事や局長級、というように。


 下着としては、袖が長いブラウス・ケンジャ(近年はTシャツで代用されることも)を着用し、その上に白い木綿の袖が長い襦袢・テュゴを重ねます。普段着として、袖口ラゲゴンだけのもの(着物の半襟のようなものでしょうか?)を使う場合もあるそうですが。

 ゴは着物と同じく右衽に前を合わせるため、衿元からは白いテュゴが覗きます。また、こちらは着物と異なりテュゴの袖はゴの袖を包むように、表に折り返して着用されます。そのため、ゴの衿や袖口はあまり汚れないそうです。


 ブータン人女性の衣服は「キラ」と称される、幅50cm×250cmの三枚の布を剥ぎ合わせて一枚にした、ベッドカバーほどの長方形の布になります。

 このキラは一枚で約1.4kgほどの重量があり、左肩の後ろから身体に巻きつけ両肩でコマ(ブローチ)で留め、幅40cm×2.5mの厚手の織物のケラ(近年、幅が5cmほどの細いタイプも登場した)を締めて着用するのです。すると前は三重、後は二重に布が重なるので温かくなります。さらに、下のスカート状の部分はたっぷりとしているので、自由に動くこともできます。ついでに、キラの右前に出来た折り目から、懐に物を入れることもできます。


 キラの下には下着として、白い木綿のスリップ(ワンピース型の下着)・グツムと、ブラウス・ケンジャを着ます。靴はフェルトの長靴や短靴などがあります。

 アクセサリーとしては、年齢を問わず珊瑚やトルコ石が用いられた首飾りに、腕輪や指輪を身に付けます。更に、両肩のブローチはジャプタで繋がれているので、これも一種のアクセサリーと言えるかもしれません。ブローチ自体も、銀製で、吉祥文様などが精巧に施された、手の込んだものです。

 礼装としては、上記に加えて丈50cmほどで、男性用の下着・テュゴより襟の幅が少し細い以外は全く同じ仕立ての、呼び名も同じ羽織を重ねます。この羽織は緞子かウール製です。

 加えて、赤地に縞模様の肩掛け・ラチューを左肩に掛けます。ラチューの大きさは様々ですがカムニよりは小さいそうです。ラチューは赤子を負ぶう際や、荷物を背負う際にも用いられます。

 

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