南アジア その①インド

 今回からは南アジア編に入ります。南アジア編の最初はインドの民族衣装についてです。

 インドの民族衣装といえばサリー。でも同時に、サリーは女性の衣裳であることは、皆さんご存じだと思います。もっと詳細に言ってしまえば、サリーはヒンドゥー教徒の、それも既婚の女性の衣服です。

 なんでもヒンドゥーの教えでは、人の手によって裁断されたり縫われた衣服は清浄ではないとされているのだとか。そのため、サリーのような布をそのまま用いるタイプの衣服が民族衣装になったのですね。

 また、ゆったりしていて身体を締め付けないから来ていて楽で、なおかつ風通しもよいサリーはインドの気候に適してもいます。それにサリーは縫製の手間がかからず、紐などの小物を用いずとも簡単に着用でき、保管も容易という優れた衣装なのです。


 インドの民族衣装は材質も装飾技法も様々なのですが、前述のサリーのような大多数を占める無縫製型と、西北部に多い縫製型の衣服に大別できます。縫製型もまた女性の場合は、下衣がスカートかズボンかでタイプが分かれるようです。そのうち、イスラム女性は肌が露出しないズボンスタイルなのだとか。

 縫製型のスカートタイプの代表例には背中が開いたブラウス・カンジャリにガガラ(スカート)とオダニ(大型のヴェール)を併せたものが知られています。

 カンジャリは背中が空いているので、風通しがよい。それにオダニを被れば肌が隠れるので、人の目を心配する必要もありません。また、オダニには装飾と魔除けを兼ねたミラーワーク(鏡の破片を用いた刺繍のこと)が施されているので、人ならざる者相手の背後のガードもばっちりです。


 前述のような背景を持つ無縫製型の衣服は、目的に応じて様々な長さの一枚布をそのまま用います。具体例としては、既婚女性のサリーの他、男性の腰衣(腰巻)ドーティ、頭に巻くターバンなどが挙げられます。

 ドーティ(ルンギとも)は幅1m、長さ4~5mの白い木綿製で、その名の通り腰に巻いて着用します。最後の一巻きを股の間を通して前から後ろに回し、腰に挟みます。すると、それまでは巻きスカート状だったのが、脚の部分が分かれたゆったりとしたズボン状になるため、動きやすくなるのです。

 また、ドーティのように布をズボンのようになるよう巻いて着用するのではなく、ピジャマという長ズボンを穿くこともあります。ピジャマは幅広でゆったりしているけれど、膝下からはぴったりとしているそうです。

 インド人男性の伝統的な服装は、ドーティとターバン、クルタ(上衣)に、先が尖った革靴というスタイルなのだそうです。クルタは立襟で長袖のゆったりとした上衣で風通しが良いので、丈が長い割りには涼しく着られるのだとか。

 他、インド北西部ではターバンや防寒具の代わりとしてショールを用いることもあるようです。


 お次は、インド女性の民族衣装について。インド人女性の民族衣装といえばサリー。でも本来ならば、サリーは前述のように既婚女性の衣服なのだそうです。では、未婚の女性はどんな服を着ているのかといいますと、前述のクルタ+ピジャマ、もしくはカミーズ(七分丈の、貫頭型の上衣)+サルワール(ゆったりとしたズボン)のスタイルが一般的なのだそうです。


 そしてとうとうやってきたサリーのターン。サリーを着用する際にはまず、チョリという身体のラインにフィットした、袖と丈が短い(臍が見えるほど)ブラウスとペチコートを着用します。なお、全体の色彩を調和させるため、チョリはサリーの色の中から採られることが多いようです。とにもかくにも、サリーまで着用したら、アクセサリーを付けるのも忘れてはいけません。

 ちなみに、サリーで最も文様が美しい端の部分はパラーヴ(パッルー)と称されていて、初対面の客や姑に対する遠慮の証としてヴェールとして用いる他、仕事の際は左前の腰に挟んで動きやすくするそうです。


 サリーの巻き方には様々なスタイルがあり、既婚か否かだけでなく、家族の職業や大まかな年齢まで分かるようです。更に、カーストによって着用できる布の材質や装飾や染色の方法、色遣いや文様も違うそうですが、これはヒンドゥー教徒にとっては大きな意味を持っています。

 というのも、下位のカーストの者と接触することさえ汚れになるので、生活するにあたって道行く人のカーストが分からなければ、おちおち外を歩くこともできないのです。これだけ書くとなんだかなあという感じですが、共同体のメンバーが同じような衣服を着用するのには、共同体の結束力を強める効果もあります。

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