東南アジア その⑤ラオス

 今回はラオスの民族衣装についてです。ラオスもまた東南アジアの国ですので、前回述べたような筒状のものと一枚布の状態のものの、二つのタイプの腰衣が民族衣装として受け継がれています。ラオスでは、筒状の腰衣のうち男性用のものを「サロン」、女性用のものを「シン」、布状のもの(ズボン状で、男性が着用する)を「パーハーンと呼ぶそうです。もっとも、ラオスもまた多民族国家なので、それぞれに固有の民族衣装があるのもまた事実なのですが。


 ではまずは、男性用の衣服について述べていきます。

 まず、ラオスにおいても第二次世界大戦後から洋服化が進行したため、都市部においては普段着は洋服になっているそうです。しかし、前述のサロンやパーハーンは盛装として、はたまた一定以上の年齢の方の普段着として、今も着用されているのだとか。

 サロン

 ・寺院や集会に行く際や、知人の家を訪問する際、はたまた結婚式や法事などの儀式に参加する際に着用。また、年配の方は木綿のサロンを普段着にしていることも。シャツと組み合わせて着用したりもする。

 ・寺院に行く際や、法事の際はシンプルなショールを肩に掛け、それ以外の結婚式などの儀式の際は絹のサロンを着用する。

 →着用法:筒状のサロンの中に身体を入れ、後のウエストにぴったりするよう両方から引く。更に、向かい合う襞が二つできるよう、腹部の前で布を縛る。


 パーハーン

 ・(王国だった頃は)宮中の行事、結婚式、入閣式などの様々な儀式や寺院に行く際に着用。パーは「布」、ハーンは「尾」を意味し、ズボンのように穿き、白い立て襟の上着を着用する。

 ・特に花婿の衣裳は、正装のパーハーンと白い立て襟の上着に、絹の小さなチェックのショール(たすきのように斜めに左の肩にかける)となっています。

 →着用法:3.2mの絹の布を縦に半分に畳み、その山を腰の後ろの中央にあて、ウエストのサイズに合わせて前で結ぶ。次に革のベルトを締め、結んだ布の残りを管のように巻き、前から後ろへと股を潜らせる。残りはベルトに挟み、ズボンのように穿く。


お次は女性のシンについて。

 シンの材質は絹や綿、またやその混紡、はたまた絹に金糸銀糸の紋様入りのもので、TPOによって使い分けます。例えば花嫁ならば自分が好きな色に、金糸や銀糸入りのシン(に加えてショールに、長袖か七分袖の、スパンコールの襟飾りが付いたブラウス)を着用します。ですが通勤着や訪問着では絹でもシンプルや縞や絣の模様のシンに、金糸や銀糸の裾を付ける程度になります。なお、儀式や寺院に向かう最は、必ず左肩から胸を包むようにショールをかけるそうです。

 シンはラオスの気候や風土に適していて、なおかつ寸法の調節が用意なので動きやす、また収納もしやすいという、大変便利な民族衣装です。それでいて晴れの場にも相応しい格式があるのですから、もう言うことはありません。


 第二次世界大戦後、シンに穿きやすくするため洋服の要素を取り入れたものも誕生しました。ですが、伝統的なシンはウエスト、中央、裾の三つの部分と三枚の縫い合わされているものになります。

 着用の流れは、筒状のシンの中に身体を入れる→後ろが綺麗に張るよう整える→残りの布を、腹部の前が三枚重ねになるよう畳む、となります。そして銀製のベルトや白い木綿の糸のベルトで締めるのです。すると、ヒップはタイトだけれど裾を広げることはでき、脚を自由に動かせるけれど両端が縫われているので、前が肌蹴ることはなくなります。


 シンには前述のようにオーバーブラウス(裾を入れないタイプのブラウスのこと)を合わせます。そして、パー・ビアンと呼ばれる幅60cm、長さ320cmほどの肩掛けを掛けるのです。パー・ビアンは通常、前から左肩に掛けて後ろに回す→右脇の下を通って再び左肩に掛け後ろに回す、という流れに着用するようです。

 また、若い女性が花嫁として、はたまた祭りに参加する際にはブラウスを着用せずにパー・ビアンを右肩を出した状態でブラウスで留めるだけにするようです。年配の女性はこういった場合、オーバーブラウスに肩掛けを、縦に二つ折りにして合わせます。

 ラオスの女性においてシンとは単なる衣服以上の、分身のような存在でもあります。女性は息子の妻に贈るシンと、自分が死んだ際に掛けてもらうシンを、何枚も作るそうです。また子供が生まれると、娘ならば母親のシンで、息子ならば父親のサロンで包まれるのだとか。そうして息子が成長し、外国に行くことになったならば、お守りとしてシンの切れ端を持たせるのだとか。ちなみに、ラオスは世界でもトップクラスの織物の技術を誇る国で、そのためか織物や刺繍が上手な女性は高く評価されるそうです。


 ――と、色々と述べてきましたが、そもパーハーンやサロン、シンはラオスの多数派であるラオ族やタイ族の民族衣装だったりします。ラオスの少数民族は、木綿もしくは麻の平織の布を、藍染やろうけつ染めにし、更に色々な刺繍をほどこした布から服を仕立てるそうです。


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