東南アジア その④マレーシア

 今回はマレーシアの民族衣装についてです。

 マレーシアは多くの民族と宗教が同居している国なので、民族衣装にも様々なタイプがあります。イスラムの教えに従ってスカーフを頭に巻いた女性がいれば、サリーを纏ったインド系の女性もいたり……など。ただ、マレーシアをも含む東南アジアは、雨が多い湿潤な気候ゆえ、腰衣を着用する傾向が見られます。そうして発汗を促進し、体温を下げるのです。


 東南アジアの腰衣は筒状のものと一枚布の状態のもの(裁断も縫製もされていない布を、腰に巻きつける)の二つのタイプがあります。そのうち、マレーシアでは男女ともに着用する筒状の腰衣を「サロン」、女性が身に着ける布状の腰衣を「パンジャン」と呼びます。

 「サロン」を含む東南アジアの筒状の腰衣は、幅1m(ウエストから足首までの長さに基づいています)、長さ2~3mで、両方の織端を合わせて縫い、筒状に仕立てています。一般的には、これをタイトなロングスカートのように着用します。余った部分は折り返してきつめに巻いたり、襞を取って上の端を挟んだり、紐で締めたりして着用します。

 すると腰回りはぴったりしていても、裾は大きく広げられる。しかも両足の動きが妨げられない上に脚は見えないので、東南アジアの胡坐をかいて座る生活に適しているのです。

 布状の腰衣も、着用するとタイトなロングスカートのようになるのが一般的ですが、ズボンのように二股になる着こなしもあるそうです。


 マレーシアで注目すべきなのは、マレーシアで作られる、バティックというろうけつ染めの布です。

 まずバティックとは何か説明していきます。バティックとは、インドネシアやマレーシアで作られるろうけつ染めの布地のことです。日本では、更紗(インドで誕生した、多くの色を用いて文様を染めた布。および、その影響を受けて作られた、似たような布のこと)の一種とされてもいます。バティックは十八世紀にはヨーロッパに伝わっていて、二十世紀半ば頃からバティック=ろうけつ染めの総称として用いられるようになったそうです。

 マレーシアのバティックはインドネシアのもの(なお、インドネシアのバティックは無形文化遺産に認定されています)と比較して、色鮮やか(赤や緑、黄色、ピンク)で、南国らしい写実的な文様(大きな花や鳥、蝶など)が多いことが特徴です。

 マレーシアのバティックはハンカチやハンドバッグ、財布などの他、もちろん衣服の材料にもなります。

 また、マレーシアの他の有名な布には、ソンケットという、金糸や銀糸を用い、文様が浮き出るように織られる工芸品があります。ソンケットは中国の絹とインドの糸の貿易が盛んだった頃に誕生し、かつては王室専用の高価な布だったそうです。けれども現在ではもちろん一般市民でもこの布を用いることができます。結婚式や記念行事などの他、マレー人男性の正装の腰巻としても利用されるそうです。


 とまあ、こんな感じに主に布の紹介だけして終わることもできるのですが、それだけでは寂しいような気がしたので、主にボルネオ島北西部に住まうというプロト・マレー系民族・イバン族の民族衣装について述べていきます。

 イバン族は優れた織物の技術を有しています。彼らはその技術で、宗教儀礼の際の肩掛けに用いる、手紡ぎの木綿糸を手織りして仕立てる、絣の布「プア・クンブ」や、木綿の絣の一枚布の衣「ビダン」、祝祭の際の壁掛けを織るのです。

 また、イバン族はシャーマン用の織物「バジュ・マナン」や頭目(首長)用の「バジュ・ブロン」などの特別な織物。及び左記のような権威者のための衣服「カランビ」は、精霊から授けられる霊力を有する、特別な人間だけが織ることができるのだと信じられているのだとか。イバン族の特別な織物は、高度な絣の技法によって、精緻な模様が織り込まれています。

 その模様には、擬人像(精霊)、鳥、トカゲ、蛇といった動物モチーフのものが多いのです。が、中には人物紋様や人の頭など、かつての首狩りの風習の名残も見られます。


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