東南アジア その③ベトナム

 今回はベトナムの民族衣装についてです。

 皆さん、ベトナムの民族衣装といえばアオザイを連想されるでしょう。が、話はそう単純ではないのです。ベトナムは大多数であるキン(ベト)族と、それ以外の53の少数民族で構成されています。アオザイはこのうち、キン族が、漢民族の影響を受けて誕生した民族衣装です。アオザイは学校や企業の制服として採用されていますから、現代では他の民族の方もアオザイを着る機会はあるでしょう。けれど本来は、アオザイはベトナムの少数民族にとってはあまり関係はないのです。

 またアオザイは、あくまで「都会の制服」のような位置付けなのだそうです。では、ベトナムの人々は日常生活においてどんな服を着ている(または着ていた)のかといいますと――


・中国の影響を受けた民族→ズボンを穿く

・中部、南部とベト族以外の北部の民族→ズボンは穿かず、腰衣もしくはスカートを穿く


 となっているそうです。なお、上述の区別は下衣に限っていますが、上はブラウスだったり、詰襟の上衣だったり、はたまた裸だったりと様々なようです。

 装飾品としては、フランス統治時代のコインやシリアのコインが好まれているのだとか。他には子安貝や木の実、数珠玉が装飾品として用いられています。こういった装飾品は魔除けのアイテムでもあります。また山岳地帯に住まう民族にとっては、異なる民族の間で共通の価値を発揮するため、一種の貨幣の役割も果たすそうです。

 ただ、現代ベトナムにおいて民族衣装とは晴れの日に着用するもので、普段着ではなくなっているのだとか。ただ、民族衣装を日常生活でも着用している民族も存在していて、それがモン族になります。


 モン(Hmong)族は、(東南アジアには、タイとミャンマーの国境地帯で暮らすMonモンという民族もいるので、混同しないように注意が必要です)中国の雲貴高原、ベトナム、ラオス、タイの山岳地帯に住まう民族です。中国のミャオ族の下位グループに当たります。

 彼らはミャオ族同様、女性の民族衣装によって黒モン、青モン、白モン、花モンに分けられるのですが、あくまで他民族から付けられた他称です。ただ、民族衣装の特徴を述べるには便利な区分なので、今回は用いるとしましょう。


 モン族の女性は、日常生活においても民族衣装を着用します。ただ、これはベトナムの他の民族でも同様なのですが、男性は女性ほど民族衣装を着用しない傾向があり、青モン、白モン、花モンの男性の普段着はシャツとズボンなのだそうです。では、以下でモン族の民族衣装について述べていきます。


 まず、黒モン族の衣服は、表地と裏地で素材が違います。表地は自生の大麻を自ら布にし、更に濃い藍色に染めたもの。裏地は、現在では市場で購入した木綿をやはり藍で水色に染めたものになります。


黒モン族男性

・普段着は上衣とゆったりとしたズボン。これらに加え、立て衿の裏側に刺繍が施された、丈長の袖なしのベストを羽織り、縁なし帽を被る。なお、先の衣服は全て藍染の布で作られます。また、上衣の袖口や裾、前合わせの部分にはランニングステッチ(表、裏交互に、等間隔に針目を出しながら進む刺し方。技法としては単純な方)で刺繍を施します。


黒モン族女性

・上は長袖の上衣に、男性同様のベスト。下はミニスカートのようにも見えるキュロットスカート(丁度、男性のズボンを膝上で切断したような形になる)で、腰に幅10cm、長さ120cmほどの、服と同じ布地の帯を巻き、脚絆も付けます。上衣やこの脚絆も、やはり藍染です。帯は腰の幅だけ、上衣の裾や袖口、襟(裏側にも)、前合わせの部分にランニングステッチを施します。頭には幅12cm、長さ2mほどの布を重ねて巻きます。靴は、素足に肌色のサンダルです。


花モン族女性

・右衽の上衣に、丈が足首まであるテイアードタイプの(段々になっている)ギャザースカートを合わせます。スカートの下の脚には着用者の脚の長さに合わせた長方形状の、藍のろうけつ染めの脚絆を巻くのですが、これは黒モン族女性のものと、形は全く同じです。

 スカートの腰回りの生地はろうけつ染めのもので、その裾は刺繍やアップリケで華やかに飾ります。更にスカートの上には、刺繍を全体的に施した前垂れを付けます。上衣いも襟から胸まで、腕や袖口にも刺繍とアップリケを施します。なお、花モンの「花」とは、民族衣装が花のように美しいことを指しているそうです。

・頭は黒モン族女性のように布を巻いた上に、赤や緑のチェックのスカーフを重ね、更にもう一枚のチェックのスカートを半分に折、顎の下で結びます。靴は、素足にサンダルです。


青モン族女性

・青モン族女性の上衣は花モン族女性のものに似ていますが(刺繍やアップリケで飾るところも同じです)、藍のろうけつ染めではなくて青もしくは緑の木綿の布を使います。スカートも、花モン族女性のようにテイアードタイプのギャザースカートなのですが、裾の部分に赤い布を用い、更に刺繍糸も赤が好まれるという違いがあります。頭には、チェックのスカーフを被ったり、黒モン族女性のように布を巻いたりします。靴は、やはり素足にサンダルです。


白モン族女性

・上衣は花モン族女性のものとほぼ同じですが、メインとなる色が白で、なおかつ刺繍をほぼしないという違いもあります。下衣は、花モン族のような藍地に白ではなく、その反対の白地に藍の文様が現れるろうけつ染めの、丈長のギャザースカートになります。履物は、素足にサンダルです。


 このように、四つのモン族は民族衣装のタイプも様々なのですが、全ての部族に共通した特徴もあります。それは、装飾品として銀細工を身に着けることです。

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