東アジア その㉓台湾・高山族の男性編

 今回からは台湾の先住民のうち、漢民族せず固有の言語や習俗を残している高山族。その九部族の中でも特に衣服のデザインが美しいという、排湾(パイワン)族の服飾について述べていきます。なお、パイワン族という呼称は山地の魯凱(ルカイ)族と平地の卑南族(プユマ)族を含む広義の意味と、それらを含まない狭義の意味の二通りで使われることがあるのですが、今回と次回は、特に断りがなければ広義の意味で用いています。

 

 パイワン族は頭目(貴族)と平民に、厳格に分かれています。前者と後者の差異は、衣服の材質や装飾、装身具の差として現れています。中でも権威を象徴するのは、創世神話がモチーフである百歩蛇文、人像文、太陽文の刺繍です。平民は贈与税を頭目に支払って初めてこれらの文様が刺繍された衣服を着用することができたのだとか。

 頭目と平民の違いは上述のように衣服の織り方にも及んでいます。パイワン族の苧麻からむし布の織り方のうち、平織は平民用で、三枚綾(経糸と横糸が三本で組織される綾織のこと)は頭目用だったそうです。


 では、まずは男性用の衣服について。

 パイワン族男性の衣服の伝統的なスタイルは、上衣を着て腰巻を巻く、という形になります。なお、腰巻は必ず右側で結ばないといけません。しかし現代では、腰巻の上に変形股引(詳しくは後述)を重ねたり、はたまた洋服と組み合わせて(シャツの上に上衣を着たり、ズボンを穿いた上に変形股引を、など)着用することが多いそうです。


具体例

長袖上衣

・パイワン族でイブク、ルカイ族でイビイブクと称されるものと、南部のパイワン族の間でイトンと称されるものがある。前者は黒、藍、白の綿布や黒のビロード製。後者は黒や藍色のビロードか赤いウール製。どちらにも襟元や袖口、裾や背中などに刺繍がびっしりと施されます。

陣羽織式胴衣

・膝丈で前開きの、袖なしの胴衣のこと。パイワン族ではクルプ、ルカイ族ではウブルと称されます。もっとも格式が高いものは豹の皮、平民用のものは鹿や山羊の鞣革で作られる。豹皮製のものの中には、後身頃は豹皮だけれど、前身頃は赤い布のものがあります。そしてその赤い地には、黒い布で豹や鹿を狩る様子や、人間の首を切る様子(高山族には首狩りの風習がありました)を図案にしたものが、黒い布でアップリケされているのだとか。

袈裟衣

・パイワン族ではタロワヤ、ルカイ族ではキヌルダヌと称される、若者用の衣服。幅132cm×丈75cmの青い綿布に、毛糸製の平らな組紐を赤→黄→緑→黄→赤と五段に縫い付け、虹を表しています(土台の布は青空を表している)。結び紐には角組紐を用いるそうです。

腰巻

・幅185cm×丈42cmの黒い綿布の上部を、腰回りのお気さに縫い縮めたもの。パイワン族ではトブト、ルカイ族ではラビティと称されます。片方の脇は縫い合わせず、上にベルト用の布を縫い付けています。縫い縮めてできた襞の上には緑色の糸でチェーンステッチを段上に、6cmほどになるまで重ねて刺繍しています。頭目用はチェーンステッチの上に菱形や太陽の文様が四か所入るそうです。また、黒いビロード製のものもあるのですが、その場合上の刺繍がビーズ刺繍になるのだとか。

変形股引

・多民族のズボンを真似て作られたと考えられている独特な下衣で、着用すると形が股引に似ています。刺繍を施したもの、赤・黄色・緑のウール地を発てに縫い合わせたもの、パイワン族の多色の織物製のものの三種類があるそうです。


帽子と鉢巻

・帽子はパイワン族ではダウト、ルカイ族ではタロポヌと称され、盛装の際に被ります。布製のものと革製のもの。また、熊や猪の毛皮製のものもあります。前頭部には動物の牙を円形に飾って輝く太陽を表し、その内側と周囲と後頭部には百歩蛇、太陽、三角などの文様をビーズ刺繍で施されているため、とても華やかで豪奢な見た目です。

・鉢巻は主に黒い綿布製で、普段使い用なのですが、両端にとても華やかな刺繍が施されています。また、組紐製の鉢巻は盛装の際にも使うことがあるそうです。

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