東アジア その①アイヌ

 今回は、アイヌの民族衣装についてです。


材質

 動物性素材では鳥の羽や熊、鹿、兎、犬、タヌキ、リスなどの獣皮。更にアザラシ、ラッコ、オットセイ、トドなどの海獣の皮に、サケやマスなどの魚の皮。ただし、和人との交易が盛んになり織物が流入してくると、獣皮類は冬季の狩猟用を除いては少しづつ使われなくなったのだとか。

 植物性素材ではオヒョウ(於瓢。ニレ科ニレ属の落葉性高木で、北海道に多い)の樹皮の内皮から作った繊維やイラクサの靭皮繊維を織ったもの。他、ツルウメモドキの蔓やオヒョウニレの樹皮を儀式用の冠や背負い袋、刀懸け紐などに用いていたそうです。


衣類の型

 基本の型は男女同型。おくみ(着物の左右の前身頃に前の布部分を広く作るため付けられた、衿から裾までの半幅の布のこと)のない小袖に酷似しているそうです。袖はもじり袖(詳しくはググってください☆)で、衿は前衿はないが小衿がついていて、丈は膝丈。脚絆が発達していて、狩猟民族としての活動に適しています。


具体例

アットゥシ

 オヒョウから織られ、表面に木綿裂や刺繍などで模様が施された上着。礼装用や狩猟用として広く用いられていました。


レタㇽぺ

 イラクサの繊維から細い糸を作るという、樺太アイヌの伝統技法で作られた糸を用いて折った布で仕立てられた上着。背、袖口、衿、裾には模様が入れられている。宗谷そうや地方や下北地方で見られたそうです。


ルウンペ

 基本型の木綿の上着の表面に、2~3cm幅に裂いた絹や木綿の色柄物の布で、自在に模様をつけたもの。模様の布の柄には更にチェーンステッチ(鎖が連なったように見えるステッチで、線だけでなく広い面を表現するために使用される)を施すこすのが普通だったとか。同じ手法で、黒裂を用いて紋様にした木綿の衣はチカㇽカルぺと呼ばれます。


チヂリ

 縞木綿などの基本型の上着の表面に、アウトラインステッチ(輪郭線などに使われる、基本的なステッチ)やチェーンステッチを組み合わせて模様を表現したもの。普段着であり、北海道全域で見られました。


カパㇻミㇷ゚

 日高地方に多く見られた、不祝儀用とされることもあった服。特に目を引くのは、白い木綿布を切り紙細工の要領で左右対称に切り抜き、その上から刺繍された、背中の部分いっぱいに広がる模様(模様は横地に入れられることもあった)で、全体的に白の多い衣服です。アイヌの人々が幅広の白い木綿布を入手できるようになってから、模様が付けられるようになったのだとか。


モウㇽ

 素材は木綿でゆったりとした、一般的には貫頭衣の型の肌着。筒袖かもじり袖が付いていて、首もとは3~4cmの小衿か、いいさなはめ込み式の衿が付いていました。前の中心は胸元から裾にかけて縫い合わされていたので、貫頭衣の型になります。


コソンテ

 和人の小袖のことで、交易などで入って来た、輸入品の衣服の一つ。アイヌの人々は、柔らかい絹織物でできた小袖の丈を直し、男性用の儀礼用の衣服としていたとか。


チンパオリ

 コソンテと同じ輸入品の衣服で、和人の陣羽織のこと。酋長などの地位有る男性の儀礼服として用いられていたそうです。


装身具

 伝統的な装身具と呼べるものをほとんど発達させなかった和人とは異なり、アイヌの人々は様々な装身具を用いていました。刺繍を施し頭部に巻くマタンプシ(鉢巻)に、耳輪(ニンカリ)や頸飾帯(レクトゥンペ)、玉や、和人の刀の鍔など交易で得た大きな金属製の飾りを用いた首飾り(タマサイ)など。これらはいずれも宗教的な意味を強く有しているのだとか。


模様

 刺繍など模様が施された衣服は元々は男性用でしたが、後に女性の衣服にも模様が付けられるようになったのだとか。また、明治時代に収集された江戸時代後期のアイヌの上着には模様が施されているのですが、だからといって16~17世紀頃の衣服にも模様が施されていたとは断言できないそうです。

 基本の模様は渦巻き模様と括弧模様で、これらを巧みに組み合わせていたそうです。アイヌの女性は、母親から紋様のパターンや構図を伝えられていたそうです。

 模様を表す技法には、布地をアップリケ状に切り縫い付けるものと、糸のみで模様を作るもの、前述の技法を組み合わせたものがありました。アイヌの模様やその配置には自然観や呪術的・宗教的な意味があり、背や衿、袖口、裾にされていたのも深い意味あってのことだったのです。もっとも、地布一面に刺繍を施せば単純に補強にもなりますので、特に擦り切れやすい衿、袖、裾に模様を施すというのは、実用性という観点からも大変理に適ったことなのです。

 


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