戦術的呼吸と事後報告
今回でこの章も終わりです。寂しいものですね。今回はこの章で恐らく唯一、日常生活でも役立つかもしれない話題について述べていきます。
気持ちがざわついている時でも、深呼吸をしたら気持ちが落ち着き、冷静になれることがありますよね。戦術的呼吸(Tactical Breathing)とは、そんな呼吸のメカニズムを利用して冷静を保つ、簡単に言ったら自律神経の訓練法になります。もっとも、深呼吸ではなくて腹式呼吸ですが。
では、まずはやり方を……。
1ゆっくり四つ数えながら、鼻から息を吸い、腹を風船のように膨らませる。
2「1」の状態のまま息を止めて四つ数える。
3またゆっくり四つ数えながら、口から息を吐き、腹をへこませる。
4息を吐き切ったところで息を止め、また四つ数えたら、最初に戻る。
上記の方法は、適宜自分に合うように(例えば息を吸う時間を五秒にする、とか)変えても効果はあるそうです。本では、この呼吸法を実践することで「交通事故にあってひっくり返った車の中に閉じ込められ、パニックを起こしかけた際にこの呼吸法を試すと冷静になれた」といった体験談が述べられていました。他には、大怪我をした子供にこの呼吸法をさせてみたら落ち着いたという経験談も。
またこの呼吸法は衝撃的な事件の後の、恐れ慄いている心身を落ち着かせるのにも役立つそうです。著者グロスマン氏は、十五人が犠牲になった銃乱射事件の後、子供たちのカウンセリングにあたる人たちに戦術的呼吸を教えたところ、子供たちの事後経過は良好だったそうです。
他、事件の後の事後報告会というのもその後のPTSDを防ぐのに有効なのだそうです。軍の世界では、戦闘で真っ先に犠牲になるのは真実であり、また戦場からの最初の報告は必ず間違っていると言われているそうです。この章で述べてきたメカニズムのことを考えると、さもありなんという感じですね。ですが、犯罪などの操作で証言を集めなければいけない場合などは、ちょっと困ったものです。
そういう場合当日は、
・事件が起きた場所から関係者を別の場所へ移動させる(現場には事件を連想させるものが多数あり、強力なストレス原因になりかねないため)。
・刺激物は神経過敏を悪化させるため、コーヒーなどのカフェイン入り飲料は摂取しない。アルコールも避ける。
・記憶の汚染を防ぐため、真っ直ぐに帰宅して眠るよう勧める。睡眠を採れば精神状態が安心し、その日の出来事が長期記憶にと統合されやすくなるため。
・新聞やニュースを見ないように指導する。
というような対策をするといいそうです。そうして翌日になったら、面談調査や集団での事後報告会を行います。集団で情報を出し合うと、自分の記憶の空白が埋まったり、謎だと思っていたことのつじつまがあったりします。すると、「あの時自分がもっとしっかりしていれば……」というような悔いから解放され、精神を病むことを避けられるかもしれないのです。また、事件に巻き込まれ失禁してしまっていたとしても、それが自分だけではないと知るとほっとしますよね。
事後報告会の狙いは記憶と感情を切り離す、つまり事件を思い出しても神経が興奮しないようにすることにあります。報告会の最中不安に襲われ、手が震えるなどのサインが出て来たら、戦術的呼吸を行えばよいのですね。
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