殺人と心の距離 その③殺人者の素因
前回までは主に殺人者と被害者の心の距離について述べていたのですが、今回からは殺人者の側のみに存在する、殺人を可能にする諸条件について述べていきます。まずは、怒りについて。
想像するのは容易いことですが、戦友や上官を失ったばかりの兵士は、戦場で攻撃性を発揮しやすいそうです。戦友や上官を喪って茫然自失し、心が折れてしまう者ももちろんいます。けれど、多くの場合は怒りが引き起こされ、そうして殺人が可能になるのだとか。怒りもまた、死に対する反応の一つなのです。
ちなみに、脳は他者への(自分はそうだと信じている)正義の制裁を下すとドーパミンが放出されるようになっているそうです。なので、敵兵への「復讐」を果たした直後の兵士もまた快楽を感じていてもおかしくないでしょう。
ほとんどの場合において、大切な存在を殺してはいないだろう敵を報復として殺害して快感を感じるなど、銃後に属する人間、いや熱狂が冷めた後の本人にとっても受け入れがたい心理かもしれません。でも、脳がそうなっているのなら致し方がないでしょうね。ただ、だからといって正義の制裁を下す快感に依存してはいけないのですが。
怒りはごく普通の兵士をも殺人に駆り立てますが、中には生まれながらに殺人に対して抵抗感をさほど持たず、戦闘が長引いても精神的なダメージを受けない者もいます。人口の数パーセントを占めると言われている彼ら、つまりサイコパスは、マイナスイメージと共に語られがちです。ですが彼らの、戦闘に当たっても平静を保ち、強制されたか正当な理由を与えられた場合、後悔や自責を感じずに敵を殺害できるというのは、兵士としては理想的な資質なのです。
考えてみてください。もしも自国の領土が戦場になったとして、その防衛もしくは奪還のために投入された兵士が、敵とはいえ人間を殺すことはできないと躊躇っていたら? その兵士は一人の人間としては高潔で慈愛に溢れた存在かもしれませんが、家族や住む場所を失った一般市民からしたら罵倒したくなって当然でしょう。兵士の育成には税金が使われますしね。要するに、サイコパスが必要とされ、英雄となれる場所も存在するのです。
またある調査によると、戦闘から帰還した兵士のうち、サイコパスに該当するだろうと判断された者は皆、他の帰還兵よりも明らかに社会に役立つ貢献をしていたそうです。これは、敵を殺害するのに心理的なダメージを負わないのであれば、他の兵士と比べて心を病み日常生活に支障をきたすことがないためかもしれません。
ですが何はともあれ、サイコパスは銃後の社会においても輝くことのできる存在なのです。そんな彼らを、危険で不気味な存在として十把一絡げにして排除するのは、あまりに早計ではないでしょうか。
攻撃的な性質(というか性格そのもの)は、環境と遺伝の両方の影響を受けます。そして、誰かが一般的にイメージされるサイコパスもしくはソシオパスになるには、他者に感情移入できるか否か、という要素にも左右されます。つまり、遺伝的に攻撃的な要素を持って生まれても、教育次第ではその人は日常生活においては他者に牙を向けないようになるかもしれません。どころか一たび危機的状況に陥れば果敢に敵に立ち向かう、理想的な人間になれるかもしれないのです。
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