戦闘の代償 その⑥記憶の欠落、歪み
今回は戦闘中に起りうる、記憶に関する諸現象についてです。
ある調査によると、銃撃戦を体験した警察官の47%は、少なくとも自分の行動の一部について記憶を失っているそうです。例えば一発か二発しか発砲しなかった時は撃った数を覚えているけれど、それ以上になると何発撃ったか忘れたり、実際よりかなり少なめに覚えていたとか。容疑者に向かって数発しか撃っていないはずなのに、実際は大容量の弾倉が空になっていた、というのは良くある話なのだそうです。また、たとえ実際に撃った数は二発でも、一発目の記憶しかないという証言もあります。
なお、撃つ数が多いほど記憶は曖昧になり、実際の数よりも多く発砲したと記憶していたのは、ほんの僅かだそうです。でもなぜ、こんなことが生じるのでしょうね。
実は、戦闘中の記憶というのは連続的なスナップ写真のようなもので、一部は鮮明に覚えていても、一部はぼやけていたり完全に抜け落ちているものなのだとか。生きるか死ぬかの対決、特に心拍数が「黒の状態」に達している場合は、ある程度の記憶の欠落が生じることも多々あるそうです。また記憶の欠落には、混乱により今やっていることに固執してしまい、他の可能性を理性的に考えられなくなる、というメカニズムも関係しているのだとか。
お次は記憶の歪みについて。銃撃に関わった警察官のうち21%は記憶の歪みを経験しているそうです。なんでも過大なストレスに晒されると、実際の記憶とこんなことになったらどうしようと想像している(≒恐れている)ことが合成されてしまうのだとか。
例えばある警察官はパートナーと二人で銃撃戦に巻き込まれた際、パートナーが撃たれ、弾丸が空けた穴や、そこから噴き出す血をはっきりと「見た」そうです。実際はパートナーは怪我なんてしていなかったのに。
また、この記憶の歪みは罪の意識に苦しんでいる時(自分のせいで仲間が死んだとか、部隊が負けたとか思いこんでいる時)に生じやすいそうです。そのため上記の事例とは逆に、ある出来事や場所の記憶が抜け落ちてしまうことも。ために上記のような理由の記憶の欠落も相まって、自分はすべきことをしなかったという罪悪感を抱えてしまう場合もあるのだとか。他の体験者の証言によると、実際はきちんとすべきことをしていたにも関わらず。
ここからはこのターンのプラスアルファです。
ある研究によると、これまで述べてきたような感覚の歪みは重複しがちなのだそうです。例えば発砲直前の場合だと、平均して2.02種類の歪みを経験する、という調査結果もあるのだとか。
歪みの発生率は発砲中だと更に高まり、平均2.45種類になるそうです。これは恐らく、ストレスのレベルが上昇するにつれて近くの歪みが起きやすくなるためなのだとか。事実、歪みの発生率は発砲中により高まるそうです。
最もよくある重複現象は、戦闘直前及び戦闘中に同じ歪みを繰り返し経験すると言う現象なのだそうです。以下にその相関関係(「r」と表記)を列挙しますね。もっとも以下の結果は、銃撃戦に巻き込まれた法執行官を対象とした調査によるもので、他の場合(例えば武器が違った場合)はどうなるか分かりませんが、参考程度に。
明晰視 r=0.61
トンネル視野 r=0.50
時間延長 r=0.46
時間短縮 r=0.44
聴覚抑制 r=0.23
聴覚強化 r=0.14
上記の結果が何を意味しているのかと言うと、ある時点で明晰視を経験した場合、他の時点でも明晰視を経験しやすい。けれどある時点で聴覚の強化が起っても、他の時点では生じる確率は低い、ということです。
その他の相関関係として、ある歪みが生じると、別のある歪みが起きやすくなる。その一方で、また別の歪みは生じにくくなるそうなので、以下で列挙していきましょう(生じにくい、という負の相関関係はマイナス値で表します)。
発砲前の聴覚抑制と、発砲前と最中の時間延長 r=0.28
発砲中のトンネル視野と聴覚抑制 r=0.29
発砲前の時間延長と聴覚抑制 r=0.28
発砲前のトンネル視野と明晰視 r=-0.38
発砲前のトンネル視野と、発砲中の明晰視 r=-0.27
つまり、トンネル視野は聴覚抑制とは同時には起きやすいけれど、明晰視とは同時には起きにくいのですね。
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