戦闘の代償 その③心拍数

 今回も前回同様、『「戦争」の心理学』の方の内容を纏めていきます。今回は火急の事態に巻き込まれたら心拍数はどうなるかとか、そういう感じです。という訳で早速、本で使われていた名称を使って、心拍数増加やそれに伴う影響について見ていきましょう。


心拍数増加の影響※

白の状態(最低レベル)

・眠っている時や、ピンチに巻きこまれるなど夢にも考えずにぼーっとしている状態。ルームウェア姿で、ポテチ食べながら漫画を読んでいる時をイメージしましょう。


黄の状態(基本的な警戒、即応態勢)

・白の状態の一つ上の、戦闘の心構えはできている状態。心理面を除けば、心拍数も含めて白の状態と特に変わらない。兵士ならば平時でも、そして任務中でも戦闘に巻き込まれない限りはこの状態を保つべきなのだとか。


赤の状態(自己防衛・戦闘に最適なレベル)

・一般に心拍数が115~145/分の状態。複雑な運動能力、瞬間視能力、認知反応速度は全てピークに達している。が、心拍数が115/分を越えると、複雑な運動能力は低下し始める。

・例えば何らかの恐怖体験の後、手が震えるといった現象は、末梢の血流が減少することによって生じます。なので戦士の皆さんは、この状態でも弾倉の交換などの細かい作業ができるように、普段から練習を重ねて身体に覚えさせておくと良いでしょう。


灰色の状態

・心拍数が145~175/分の状態。一般には複雑な運動能力が失われていくが、訓練次第(強いストレスのかかる条件下での成功体験を経験させる、とにかく反復して練習する)で、赤の状態並みの作業能力を保つことは可能。また、適切な呼吸法(深呼吸など)によって、意識的に心拍数を下げることもできます。

・動作を体に覚えさせる場合、選択肢はなるべく少なく、シンプルに(できれば一つに)することが重要です。取りうる選択肢が一つから二つに増えるだけで、反応時間は58%も増えるのだとか。

・驚いた時もですが、この状態に入ると左右相称運動がおこりやすくなるため、ピストルを持った警察が容疑者のシャツを片手で掴むと、銃を持っている方の手も咄嗟に把握反応が起きてしまい……というような、どちらにとっても不運極まりない事故が生じかねないそうです。


黒の状態

・心拍数が175/分を越えた状態。この状態になると認知機能は低下し、格闘したりはできるけれど、まともに思考できなくなるのだとか。

・この状態の時血管は収縮し指はかじかみ、身体の表層に血が行き届かなくなるため肌は青白くなる。さらに血管の収縮が進むと運動に必要な筋肉にも血が流れなくなり、血は身体の中心部や大筋群に溜る(つまり、動脈が傷つかない限りはかなりの負傷を負っても出血しにくくなる)ため、血圧が上昇する。

・血管の収縮の後は、拡張という正反対の減少が起きるため、肌の色が薄い人ならば顔は真っ赤になります。またこの時、血管が収縮していた時に負った傷から血が噴き出すことも。

・黒の状態ではトンネル視野という、周辺視野が狭まる現象も起ります。ストレスが強まれば強まるほど視野は狭くなり、また奥行きの感覚も失われるため、恐怖の対象が実際よりも近くにいるように見え・・ます。一方、近視野も失われるため、すぐ側にあるはずのものが見えにくくなります。加えて、排他的聴覚抑制という現象も生じます(詳しくは次回ぐらいに)。


 上記の条件が当てはまるのは、心拍数が生命の危機や恐怖、もしくはホルモンによって上昇した場合のみです。ちなみに、ホルモンによる作業能力、体力の増大は10秒で100%に達しますが30秒後→55%、90秒後→31%と低下し、体力を回復させるには最低三分の休憩が必要になるのだとか。

 また、恐怖のため血管が収縮し心拍数が増加した直後、激しい労作や運動をしなければならなかった場合(道端で刃物を持った不審者に遭遇し、なんとか走って逃げたなど)は、増幅作用によって心拍数は更に上昇する可能性がある。つまり、個々の条件によって心拍数などの生理現象は大きく変化するので、戦闘能力を正確に表しているのではなく、あくまで目安として捉えてください。


 上記のような交感神経の強度の興奮が生じた後、一定時間以上の弛緩が続くと、副交感神経の揺り戻しが起りやすくなるそうです。具体的には、体力が大幅に低下し、心拍数は減少し血圧は低下します。そのため眩暈や吐き気、嘔吐に冷や汗などのショック症状や激しい疲労感を感じるのだとか。


 ここからは本筋には全く関係ない話を一つさせてください。世の中、たまに利き手と心臓が同じ側(正確には心臓は身体の真ん中にあり、一般的には左側を向いていると言うべきなのでしょうが)にある人間がいますよね。実は私もそうなんです。ちなみに右利きです。

 一般的な利き手が右で、心臓が左側にある人にとっては、右側は「安全な」側なのだそうですね。でも私にとっては右側こそが警戒すべき側なんです。私は無意識に、向かって右側から近づいてくる人がいると、すれ違うまで少し身構えてしまいます。私が右側から近づかれて警戒しない相手は余程親しい人か、幼児などの自分よりあからさまに弱く、なおかつ凶器を隠し持っていないだろう存在だけです。でも左側も利き手の方ではないから、決して油断はできない。だから結局のところ私は、自宅にいる時以外は周囲を少なからず警戒しているのだと思います。もしかしたらこれが「黄の状態」なのかも。皆さんはどうですか?

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