十三冊目 殺人の心理学とトラウマ
はじめに
いわゆる「普通」の人間は本来ならば、同じ種類の生物――つまり人間を殺すことに、強力な抵抗感を示します。その抵抗感に普段気づいていなくとも。
今現在進行中の紛争の様子をニュースなどで見られた方の中には、この見解を否定する方もいらっしゃるかもしれません。ですが第二次世界大戦中のアメリカ兵は、敵と遭遇して戦闘が始まっても、15%から20%しか武器を使わなかったのだそうです。しかもこの割合は、戦闘が一日で終わろうが、二日三日と続こうと同じだった。また、戦後に何千何万という兵士を対象に調査しても、やはり結果は同じで、15%から20%の兵士は発砲しなかった。
こんな風に書いてしまうと「その兵士が腑抜けだっただけ」と判断する方もいらっしゃるかもしれません。ですが発砲しなかった兵士たちは、発砲よりも危険な仕事(味方を救出する、武器弾薬を運ぶ、伝令を務めるなど)を自ら進んで行っていたそうです。しかし日本軍の自殺攻撃に繰り返し晒された時でさえも発砲しようとはしなかった。
発砲しなかった80%から85%の兵士たちは、決して勇気がないわけではない。むしろその逆だったと言えるでしょう。もっとも第二次世界大戦以前は、兵士が敵を殺さないことがあるとすればパニックを起こして逃亡したためだと、誰もが決めかかっていたそうですが。
なにはともあれ、80%から85%の兵士がいざという時に発砲しない、義務から逃れようとするというのは、軍としては大問題です。そのためアメリカ軍はこの殺人への抵抗感を克服するための研究や訓練を重ね、兵士たちに条件付けを行いました。そうした訓練を施されベトナムに派遣されたアメリカ兵はしかし勝利を手にすることなく、アメリカ社会から長く蔑視され拒絶され、戦場で負った傷に加え、新たな深い傷を心に負うことになりました。心に負った深手は、身体にも影響を及ぼします。また、傷を負った個人だけでなくその家族や周囲、次の世代にも。
こうした殺人に纏わる諸問題や、何が殺人を可能にするのか(物理的及び心理的な距離感、殺害に使用する武器など)、及びテレビやゲームの影響について非常に詳細に述べる良書に『デーヴ・グロスマン著 戦争における「人殺し」の心理学』があります。
上記の一冊に加えグロスマン氏の別の著作『「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム』、トラウマによる脳の改変メカニズムや様々な治療法の効果について述べる「身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法」という名著を参考に、戦闘などの極限状態に追い込まれた人間の心身の反応や負うトラウマ、及びトラウマからの回復手段などを今の私に出来る限りまとめていこうというのが本章の目標です。
また余力があれば私が最近読んだ本「兵士とセックス 第二次世界大戦下のフランスで米兵は何をしたのか?」「性的支配と歴史」と、今まさに読んでいる本「戦場の性 独ソ戦下のドイツ兵と女性たち」を参考に、戦時下や占領下に発生する性暴力などについても触れていきたいと思っています。なので皆さま何か知りたいことがあったら気軽に質問なさってください。
今回はこんな感じで今回はいつもよりも短めだし、何かしらの知識を皆さまにお届けすることができず申し訳なく思っているのですが、本格的なまとめに入るのは次回からにするので、よろしくお願いいたします。
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