　今回からはコーカサス地方の国々の料理についてです。

　ロシアとコーカサス地方の国はもちろん別の国なのですが、歴史を反映してかロシアではコーカサス地方を広大なロシアの周辺であり境界、つまりはロシアの一部のように意識しているのだとか。この認識の行き着いた果てが昨今の情勢なのでしょうね。まあとにもかくにも、コーカサスの料理はいまやロシア料理の欠かせないレパートリーになっているのです。

　コーカサスは長い歴史の過程でロシアだけでなく他の様々な国や民族の侵入や支配を受けました。そのため民族も言語も宗派も様々で、料理もまた多種多様。しかしコーカサス全体に共通した料理も多いのだとか。また、食文化の上ではイランとトルコの影響を受けている他、気候が地中海性気候と似通っている地域には、地中海料理と同じようなものがあるそうな。

　コーカサスの料理の最大の特徴は、野菜や果物、肉に魚、豆類などなど食材が大変豊富なこと。また果物が豊富に収穫されるため、生で食べるだけでなく料理にも積極的に使われ、独特の香りと風味を齎しているそうです。

　コーカサスの料理のもう一つの特徴は、香辛料の種類が多いこと。素材そのもののおいしさを生かすロシア料理とは対照的に、コーカサスの料理は香辛料のコクや辛味、エキゾチックな風味があるものが多いのだとか。

　調理法の特性としては、コーカサスの肉料理は調理の過程で脂肪分を上手におとし、また西欧とは違って塩よりも香辛料を多く使うという点が挙げられます。塩と脂肪は、コレステロール値を上げる組み合わせ。塩と脂肪の組み合わせを上手く避けることと、前述のように野菜や果物を豊富に摂取すること。加えてヨーグルトを沢山摂取していることが、コーカサス地方の人々の長寿の要因なのだとか。

　コーカサス料理の特徴はこんなところなのですが、共通した食の要素はあるものの、各々の国独自の個性はもちろんあります。という訳で、まずはジョージア料理から。

　ジョージアは中部の山脈によって東西に分けられ、両者で食文化がかなり異なるそうです。ちなみに東西とも、西ヨーロッパやロシアの料理の影響は見られないのだとか。

　西ジョージアはトルコやギリシャに大きく影響されていて、東ジョージアはイランの影響が見られるのだとか。例えば西ジョージアではトウモロコシ粉のパン「ムチャディ」がよく作られるけれど、東ジョージアでは小麦のパンの方が好まれる。また、西ジョージアでは鶏肉や七面鳥が好まれるけれど、東ジョージアでは牛肉や羊が好まれるなどなど。このような違いはあるものの、ジョージア料理は

・最も好まれるのは肉料理。野菜の料理も沢山あるけれど、魚料理はあまり発達しなかった（とはいえ魚料理が無いわけではない）。

・下記の香草やナッツ（特にクルミ）を使った調味料やソースが発達している。

・特産のワイン（詳しくは酒の回のその③参照）

　という特徴があります。使用される野菜はインゲン、ナス、キャベツ、カリフラワー、ビーツ、トマト、ホウレンソウなど。他にイラクサ、ゼニアオイ、マツバボタンなどの野草も使います。

　また、クルミ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ブナの実などの木の実や、バジル、チャービル、リーキ（ニラネギ）、ミント、コリアンダー、エシャロット、ししとうといった香草も使用するのだとか。香辛料では唐辛子やニンニク、コショウが使われます。他、ベルベリスという日本のゆかりに似たスパイスもあるそうです。これらを複雑に組み合わせて調味料やソースを作るのですね。「フメリ・スネリ」という非常に沢山のハーブの粉末を調合した万能調味料や、「サツィヴィ」というクルミのソースが特に有名です。

　ジョージア料理の有名どころは、パンだとハチャプリというたっぷりチーズのパンがあります。ちなみに、ジョージア料理ではチーズを沢山使うものの、チーズをそのまま食べることはあまりないそうです。

　スープだと牛肉と米、クルミが入った酸味の利いたコクのある「ハルチョー」や、牛肉（羊肉のことも）を煮込んだ栄養満点の「ハシ」があります。ハシは二日酔い対策や疲労回復、腹の調子が悪いときに効果があると言われているのだとか。また、中央アジア経由で伝わったという、水餃子に似た料理「ヒンカリ」もあります。

　お菓子だと、クリスマスや年越しには欠かせない「ゴジナキ」があります。ゴジナキは日本の雷おこしに似た、ひまわりの種やクルミなどのナッツを蜂蜜で固めた伝統的なお菓子です。糸で一列に繋いだクルミなどを小麦粉を加えた果汁（主に葡萄）に浸して作る棒状の飴「チュルチヘラ」も有名です。

今回のスペシャルサンクス

・コーカサスを知るための60章

・知られざる魅惑の国グルジア