スイーツ その①
今回からはスイーツのターンに入ります。でもその前に、スイーツづくりには欠かせない甘味料について少々。
砂糖がロシアで知られるようになったのは十八世紀。ビーツなどの原料を用いて大量生産されるようになったのは十九世紀後半なので、それ以前の甘味料といえば蜂蜜でした。そのため蜂蜜は、お菓子作りだけでなく料理にも使われていたのです。
ちなみに、砂糖は始めは贅沢品であり、ツァーリや貴族たちは宴の席に砂糖で作った鷲や白鳥、鴨、もしくはクレムリンなどの建物を作って、食卓を飾っていたそうです。
話しはあと少々脱線しますがお許しください。
読者の皆さんが蜂蜜が好きな動物はと訊かれたら真っ先に想像するのは、恐らく熊ですよね。ロシアでも熊は蜂蜜と縁がある動物とされているのですが、熊は同時に呪術的な力を持つ神聖で恐ろしい生き物であるとされてもいます。
「ロシアフォークロアの世界」という本によると、熊は冬には母なる大地の下に姿を消し(=冬眠し)春には地上に現れることから、神秘的な存在だと見做されていたそうです。更に、再生するために死ぬ、言い換えれば一種の不死身の存在ともされていたのか。
正教受容後も熊の手足と爪は特別な尊重を受けていて、例えば熊の前足はモスクワ近郊では農家の家畜小屋に家畜のお守りとして吊るされていたそうです。なんと二十世紀初頭まで。ロシア革命を経てソ連の無神論時代に突入しなかったら、熊の前足(これは「家畜の神」と呼ばれていたそうです)は現代でも吊るされていたのかも。なんでも熊の手足には無限の力が宿っていて、熊の手足を切り離して用いることで人間も熊の力を得られると信じられていたのだそうです。
加えて、「家畜の神」という呼び名はhttps://kakuyomu.jp/my/works/1177354054884911968/episodes/1177354054886933744
で述べたヴォロス神に与えられたものでもあります。ヴォロス崇拝は熊崇拝に起源があるのではないか、とも考えられているそうです。
また、遙か古代、狩猟文化時代のロシアには熊をトーテムとする部族がいたそうです。トーテム動物の殺害は禁じられていたので、熊を食べるのもある例外を除けば駄目。熊の毛皮で作った服を着るのも駄目でした。その名残は伝承にも残っていて、
森で熊に出会ったおじいさんが斧で熊の肢を斬り落とした。おばあさんは熊の肢の皮を敷物にしたり、肉を料理したりした。そしたら熊は菩提樹の樹で義足を作って、おじいさんとおばあさんを復讐として食い殺した。
というお話がロシア、ウクライナ、ベラルーシには伝わっているそうです。ちなみに上記のお話には様々な変型があるものの、東スラヴでしか知られていないのだとか。
さあ、とうとうスイーツの話の始まりです。最初は、これまでも度々触れてきたヴァレーニエから。
これまでは私はヴァレーニエをロシアのコンフィチュールと述べてきたのですが、それには理由があります。ヴァレーニエはあまり長く煮こまないので果物が原型を留めている。つまり日本で言うジャムのようなペースト状ではないため、コンフィチュールの方が近いからです。ちなみに、ヴァレーニエはシロップの部分を氷水などで薄めて飲むという楽しみ方もできます。
なお、ヴァレーニエの語源は「
ロシアで紅茶が飲まれるようになってから現在に至るまで、ロシア人はヴァレーニエを最高のお茶請けとして好んできました。スプーンでヴァレーニエを口に運んでから、紅茶を一口。これを交互に行うのが、ヴァレーニエの典型的な食べ方なのだとか。もちろん、パンやブリヌイに載せたり、はたまたピロシキやブリヌイの具にしても楽しめます。
このままだと分量的に熊の話がメインになってしまうのであと一品。キセーリというスイーツについて述べさせてください。
キセーリは煮た果汁に砂糖もしくは蜂蜜ジャガイモなどの澱粉を加えて作る、ジュースとゼリーの中間のようなお菓子です。水分と澱粉の割合が変わると出来上がりの濃さも変わるのですが、ロシアではあまり濃すぎない、とろりとしたものが好まれてきたそうな。
このキセーリ、実は原初年代記でも言及されているぐらい由緒正しいスイーツなのです。ですが現在親しまれているキセーリは、実は後に西ヨーロッパから入ってきたものなのだとか。
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