飲み物 その①

 今回からは、アルコール以外のロシアの飲み物について述べていきます。ということでまずは前回約束した通り、これまでも何度か触れてきたクワスについて。

 クワスはロシア最古の飲み物の一つで、名前の起源は古代スラヴ語で「発酵」を意味し――更に遡るとインド・ヨーロッパ語の「泡立つもの」という意味の単語に由来するそうです。また、現代ロシア語には「発酵させるクワシチ」という動詞があるのだとか。

 クワスは、ロシアでは茶が普及する以前は、非アルコール飲料の中で最もポピュラーなものでした。ソ連末期まではほとんど唯一の微炭酸飲料でもあったそうです。クワス専用の自動販売機もあったぐらいに。


 上記の名前の由来から分かるように、クワスは発酵飲料です。普通は小麦に大麦、ライ麦などの麦類の麦芽か粉、もしくはそば粉を発酵させて、更にミントなどや果汁で香りを付けるのだとか。「家庭で作れるロシア料理」によると油を使っていないライ麦パンからも作れるそうです。基本の味は甘くした麦茶のような感じで、慣れると癖になるのだとか。昔は家庭ごとに作っていたのですが、現在はパンやパン粉を用いて工場で作られているそうです。

 クワスは発酵飲料なので、炭酸や乳酸の他、微量のアルコールも含んでいます。だからでしょうか。ディカ―ニカ近郊夜話では「濁麦酒」という語が充てられていました。

 クワスは普通に飲まれる他、第一の料理の回で述べたように色々なスープの材料になります。そんなクワスはソ連時代末期からコーラなどの西側の清涼飲料に押され、古臭いものとして人気を失っていた時期もあるそうです。けれども国民的飲料としてウォッカと双璧を成す存在であることに変わりありません。

 また、クワスとウォッカは様々な意味で対照的な飲み物でもあります。ウォッカは無色透明の強いアルコール。対するクワスは様々な養分を含んだ茶褐色の、アルコール分はほとんどない飲料なのですから。

 ロシア語には直訳すれば「クワス的愛国心」となる慣用句があります。自分の国のことならば何でもほめそやし、他国のことならばやたらに貶す偏狭な態度、ぐらいの意味です。クワスはこういった、ロシアの泥臭さを象徴してもいます。


 お次はズビーチェニ。クワスならばまだ耳にしたことがある方もいるでしょうが、ズビーチェニは「何ぞや?」という感じでしょうね。ググる先生で調べてみても、6件しかヒットしませんでしたし。

 ズビーチェニはお湯に蜂蜜や糖蜜、砂糖などを入れて沸騰させ、香草を加えてもう一度煮たてたものです。十五世紀初頭には既に存在していたのだとか。ズビーチェニは、初めはモスクワの市場や人の集まるところで売られていただけですが、十七世紀末には家庭にも普及していたそうです。民間療法では壊血病の予防薬として用いられていたのだとか。果汁を加えていたから、本当にある程度の効果はあったのでしょうね。

 熱いうちに飲むズビーチェニは冬の、冷たいクワスは夏のロシアの国民的飲料でした。ですがズビーチェニは紅茶(次回取り上げる予定です)が普及するにつれて姿を消してしまったのです。しかし近年伝統回帰の動きが出てきて、伝統的なロシア料理を出すレストランなどではメニューに載っているところもあるのだとか。


 このままではちょっと私が決めている最低文字数に届かないので、「ロシアの歳時記」を参考にロシアで人気のベリー類の一つをご紹介していきます。

 ロシアでは、六月の夏至のころからベリーのシーズンが始まるそうです。その幕開けを飾るのが、ワイルドストロベリー。

 古くからシーズン初のベリーは滋養と薬効に富むと言われていて、ワイルドストロベリーの収穫期には、数週間ひたすらこのベリーを食べ続ける食事療法が行われていたそうです。ロシアはその気候から、冬にビタミンCが欠乏して壊血病にかかる割合が非常に高かったのです。またこの治療法は腎臓病や貧血の治療、虚弱体質の改善や、病後の体力回復のためにも行われていたのだとか。

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