酒 その②
今回からは、ロシアで親しまれているアルコールについて述べていきます。と、いうことで最初はもちろんウォッカから。ところで、日本では主にウォッカと呼ばれるこの酒は、ロシア語では「
ウォッカは小麦、大麦、ライ麦などの穀類やジャガイモなどから作る、無色透明の蒸留酒です。やたらアルコール度数が高いイメージがありますが、その実ウィスキーやブランデーとさほど変わらない、四十度という度数のものが一般的なのだとか。なぜ四十度なのかというと、この度数のウォッカが一番美味しいのだそうです。果物や香草を付けたものもあったりします。
ですが、ウォッカの正統はやはりストレート。つまりいいウォッカであればあるほど、味わいは水に近くなっていくのです。酒飲みは普通、風味を求めて高い酒を飲むのでしょうが、ウォッカの場合は「無」が求められている。なんだかおもしろいですよね。
ただ、ロシアでは
①原料としてライ麦を用いる。
②蒸留の際に白樺もしくは菩提樹の炭によってろ過する。
③泉から湧く水や流れている自然な水を使う。
※ロシアではこういった水を「生きている」水と称します。
これらの条件を満たしたものこそが、良質なロシア・ウォッカだとされているそうです。そのため何だかんだで、ロシアのウォッカには他の国のものとは違った独特の風味があるのだそうな。ロシアはポーランドと、どちらがウォッカの本家か争ったこともあります。なので、ウォッカには並々ならぬ拘りがあるのでしょう。ちなみに、1982年に国際仲裁裁判でウォッカの本家と認められたのはロシアでした。
ウォッカは、小さな杯で、天を仰ぐようにぐっと一気飲みするのが正しい飲み方とされています。前回述べた酒を杯に残さないという決まりは、ウォッカを飲む際にも有効のようです。ただ、いくらロシア人とてウォッカのような強い酒を水のように飲んでいるのではありません。ウォッカを飲む際の条件のようなものがあるのです。
一人では飲まない。飲んだらすぐにザクースカを胃に入れる。氷で割ったりせず、小さな杯で一気飲みする。という三つの鉄則を守って、一般的なロシア人はウォッカを呑んでいるそうです。でもまあ、鉄則を守れない人もいるんですけれどね。
ここからはウォッカの歴史の話を。ロシアのアルコール代表のように語られるウォッカですが、ロシアでウォッカが作られ、一般民衆にも親しまれるようになったのは、さほど古い時代の話ではありません。ウォッカの原型らしきアルコール――アクア・ヴィタ、つまり命の水をジェノヴァの使節がモスクワのヴァシーリー二世(イヴァン雷帝の曽祖父)の宮廷に持ち込んだのは、十四世紀末のこと。独自のウォッカ造りが始められたのは十五世紀半ばごろなのだそうです。
上記ヴァシーリー二世の宮廷で試飲された「命の水」は、アルコール度数が強すぎたため、薬用としてのみ用いられたそうです。また、ほぼ同時期に聖職者によって蒸留酒のサンプルが大量にイタリアから輸入されたけれど、有害なものとしてモスクワ大公国(※)への輸入は禁止されたのだとか。
※
ヴァシーリー二世の時代は、まだカーシャの回で述べた分領が存在していました。当然各々の分領を治める公も。数多くの分領を廃止し、統一国家としての基礎を固めたのがヴァシーリー二世。ヴァシーリー二世は内戦の際に敵に目を潰されてしまったため、盲目公という仇名があります。
なにはともあれ、ウォッカという単語が最初に文献に登場したのは1533年のことでした。最初「ウォッカ」は薬用酒を意味していて、その意味通り薬草や
ですが何にせよウォッカ(ヴォトカ)が飲料として一般に普及するのは、十七世紀以降のことでした。そして伝統的な蜜酒や舶来のワインと比べると遙かに安価でまた酔いやすいウォッカの登場と普及により、それまで特定の祝祭日しか飲酒していなかったロシアの民衆は、酔いどれの道を歩むこととなったのです。
ロシアの民衆のアル中化に拍車をかけたのは、前回述べた公衆酒場カバークの存在でした。十六世紀半ば、イヴァン雷帝は皇室の運営管理下にあるその名も「皇室酒場」を設けました。雷帝は酔っ払いを嫌っていたため、大衆が飲酒してよい日を復活祭習慣、クリスマス、聖ドミトリーの日に限定し、違反者は投獄していたのですが。
イヴァン雷帝以降の皇帝は、幾度か国営の酒場の閉鎖を試みました。ですがアルコール、特にウォッカから上がる税収ないし収益は国家財政にとって非常に重要な存在だったため、結局国営酒場が閉鎖されることはなかったのです。
このように、ほぼ一貫してウォッカ製造と販売を国が独占しつづけていたロシアですが、意外にも幾度かウォッカの製造と販売を禁じています。ですが、国民の反対を食らっただけでなく、禁酒令を出した後に帝政が崩壊したりソ連が崩壊したりして、酒どころではなくなって現在に至るのです。
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