第一の料理 その②

 今回はまたまたスープの話です。

 ロシアにはウハーという魚を使ったスープがあります。ウハーはロシアの魚のスープの代表です。ウハーという名前は古代スラヴ語で煮汁やスープの類を意味する「ユハ」に由来するとされています。更に遡ると、インド・ヨーロッパ語共通の語彙にまで辿り着くのだとか。

 ウハーと同じ語源から派生した他のスラヴ語、ウクライナ語の「ユシカ」はスープの意味ですが、口語では血を意味します。また、ポーランド語の「ユハ」は動物の血を意味します。血と同様生命を支える根源的な食べ物。それがスラヴ人にとってのスープなのです。


 さて。ウハーは本来、生の新鮮な魚一種類から作るべきとされています。だから大体は「サケのウハー」とか「チョウザメのウハー」というように、魚の名前を付けて呼ばれます。魚以外の具材だと、野菜は基本的にはタマネギ以外は入れないそうですが、場合によってはジャガイモも入れるそうです。

 作り方はいたってシンプルで、二十分もあれば完成します。水と魚を鍋に入れて火にかけ、出汁が出たらタマネギを加えて更に煮る。これだけ。河に釣りに行って大物が釣れたら、その場でさっそく調理できそうな簡単さですよね。

 極めてシンプルな作り方のウハーは、しかし庶民の食卓だけに上るものではなく、王侯貴族の食卓にも上っていました。「ツァーリ風ウハー」というものがあったぐらいです。


 お次のは塩漬けキュウリやその汁を使うトマトスープのソリャンカ。

 種類は肉のソリャンカ、魚のソリャンカ、野菜やキノコのソリャンカがありますが、最も良く食べられているのは肉のソリャンカなのだそうな。

 材料は、上記のものの他にタマネギ、キャベツ、場合によってはジャガイモを用います。更にケッパーやオリーブの実、レモンやレモン汁、クワス(ライ麦と麦芽を数日かけて発酵させて作る、キエフ・ルーシ時代からの伝統的な微炭酸の微アルコール性飲料)などを入れるっため、ぴりっとした味や酸味が感じられる味わいに。

 日本人の感性だとなんか微妙そうな味のスープですが、前に述べたようにロシアでは昔から酸味のあるものは身体にいいと考えられていました。なので、塩漬け野菜は大事な食材だったのです。酸味を出したい時に塩漬け野菜がなければ、クワスを入れたり酸味のある黒パンを入れたりしたぐらいです。


 これまで述べてきたのは全て温かいスープですが、ロシア料理にもフランス料理のビシソワーズのような、冷たいスープはあります。それが、クワスと刻み野菜で作るオクローシカや、魚入りのボドヴィニヤ。あと、冷たいボルシチなんてものもロシア料理の本に載っていたのですが、これはボルシチの変型なので割愛します。ただ、見た目というか色にかなりのインパクトがあるので、気になった方はググってみてください。

 オクローシカは前述したクワスを冷やし、生のキュウリ、長ネギ、冷ました茹でジャガイモ、固ゆで卵などを細かく切って入れる酸っぱくて冷たいスープです。夏バテしそうな時に食べると元気が出るそうな。確かにそんな感じの材料が沢山入ってますものね。

 ボドヴィニヤには、元々冷たいスープなのですが更に細かく砕いた氷を浮かべて食べるそうです。味は少し酸っぱいのだとか。酸味が求められているのは、これもまた夏に食べるスープだからでしょうか。ただ、このスープは最近のロシア料理のメニューからは消えつつあり、出すレストランも減ってきているのだそうです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る