前菜 ③ザクースカ色々 中

 今回も引き続きザクースカの回です。

 ロシアの伝統的な食べ物にピロークという、分かりやすく称すればロシア風のパイがあります。具は肉だったり魚だったり、キノコだったりキャベツだったり、ロシアのコンポートとも言えるヴァレーニエだったりと様々。米やジャガイモ、蕎麦の実を詰めることもあります。一説によると、「ピローク」とは宴席を意味するロシア語の「ピール」に由来するそうです。

 ちなみに、ピロシキはこのピロークから派生した指小形です。生地も、パイ生地(昔はライ麦粉で作られていたけれど、現在は小麦粉で作るのが一般的)だったり普通のパン生地だったり、クッキー生地のものもあるそうです。ロシアでは昔からパイ生地にも酵母イーストを使って発酵させていて、それが他の国のパイとピロークの大きな違いなのだとか。最後になりましたが、形は、長方形か円形です。

 指小形とは、名詞などに「小さい」「少し」という意味の接尾辞を付けた形。愛着や親近感を表します。勝手なイメージですが、猫とにゃんこみたいなものでしょう。つまり(?)、大雑把に言い切ってしまえばピロークはでっかいピロシキであり、ピロシキは小さいピロークなのです。

 大きさ以外にも、ピロシキは楕円形で、ピロークはオーブンで焼いて作るけれどピロシキは油で揚げたタイプもある、などの違いもありますが。具も、ピロークと同じかそれ以上に様々です。ピロシキは、コース料理の中ではボルシチやシチー(汁物)、ウハー(魚のスープ)と合わせて食べるものとされています。


 画像を検索していただいたらお分かりでしょうが、ピロークはそれだけでも立派な食事になるくらいのボリュームがあります。日本人なら一切れか二切れで満腹になりそうなぐらいです。なので、これがザクースカかと言われると微妙なところなのですが、あえて当てはめるとすれば温かいザクースカに該当するそうな。

 ピロークは古くから祝祭の日にはロシアの家庭で必ず焼かれてきた料理でした。特に婚礼の日の翌日は、新婦は必ずピロークを焼かなければなりませんでした。招待客は、新婦が焼いたピロークの味によって、新婦の家事の腕前を計ったのです。

 ピローク自体は決して贅沢だったり珍しい料理ではありません。むしろ、ピロークに関することわざが幾つもあるぐらい、ありふれた一品でした。ですが、ピロークを焼いて食べるという行為は「ハレ」の儀式上、象徴的な意味を持つのだそうです。

 なお、ピロークが登場することわざ(今回も「諺で読み解くロシアの人と社会」より)には「ピロークを喜ばない者は馬鹿である」「キノコ入りのピロークを食べても、舌は歯の奥にしまっておけ(=口は禍の門」、もてなしが良い家は気持ちが良いという意味の「家は装飾に寄って美しいのではなく、ピロークによって美しい」などがあります。


 革命前のロシアでは、自分の洗礼名となっている聖者の記念日である「名の日イメーニヌィ」を誕生日よりも盛大に祝っていたのですが、この名の日では必ずピロークが焼かれていました。名の日のお祝いのピロークは「イメーニヌィ・ピローク」と呼ばれていて、親戚にこのピロークを届け、お祝いへの招待にするという習慣があったのだそうです。

 イメーニヌィ・ピロークの中身は普通キャベツなのですが、宴席の最中祝われる人の頭上でピロークを割るという儀式では、レーズン入りが使われていたのだとか。割るとぱらぱらと振ってくるレーズンのように、祝われる人に金や銀が降り注ぎますようにと、客たちが祈ったのだそうです。


 ピロークの変種には、ピロシキの他にクレビャーカとラステガイというものがあります。クレビャーカは魚や肉、キノコにカーシャなどを入れ、細長い長方形に焼いたもの。つまり、実質的にピロークとほとんど変わりません。

 ラステガイは中身を見せるように焼くオープンパイのことで、肉やキノコを入れたものもありますが、普通具は魚です。そのためか魚入りのピロークと同一視されることが多いそうな。

 ラステガイは食事の際、スープ(特に魚のスープのウハー)に添えて出されます。食べる際には、スープを少々かけてよりジューシーにするのが通の食べ方なのだとか。

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