前菜 ②ザクースカ色々 上

 今回からは主要な前菜ザクースカについて触れていきます。まず、前菜という言葉を聞いたら皆さんはサラダを思い浮かべるかもしれません。が、ロシアでは私たちが真っ先に思い浮かべるタイプのグリーンサラダは少々影が薄い存在なのだそうです。それは前回述べた気候のためと、ロシア語でサラダを意味する「サラート」は十八世紀にフランス語から借用されたものという歴史が関係しています。もひとつおまけに、旧ソ連時代には品不足と流通の悪さゆえ、レストランでさえ生野菜をあまり見かけなかったそうです。

 それに、古来食事の最初に出されていたザクースカには季節であれば生の野菜が、季節から外れていれば酢漬けや塩漬けの野菜やキノコ、漬物も含まれる。つまり、私たちがサラダと聴いてイメージするものもザクースカの中に含まれてしまうのです。


 もちろん現代では、大都市のちょっと気の利いた店には様々なサラダが並んでいます。おしゃれなレストランでは、ザクースカと並んでサラダがメニューに載ってもいます。でも、ロシアのサラダの代表と見做されるものは少ないし、メインディッシュにグリーンサラダを添えるという考え方はロシア料理では一般的ではない。そんな中、「オリヴィエ・サラダ」と「ヴィネグレト」というサラダはロシアのサラダの代表格と見なされています。

 「オリヴィエ・サラダ」は茹でたジャガイモ、蒸した鶏肉、固茹で卵、キュウリ、ニンジン、キャベツ、リンゴを小さく切って塩コショウで味を調え、マヨネーズで会えたものです。鶏肉以外にもニシンやタラのレバーを入れたものなど、様々なヴァリエーションがあります。ロシアの家庭では新年にこのサラダを作るところも多いそうです。


 「ヴィネグレト」はフランス語でいわゆるフレンチドレッシングを指す「ヴィネグレット」から派生しています。ロシアでは十九世紀半ばから茹でた野菜を酢で味付けしたものが「ヴィネグレト」と称されていたのです。遡れば様々な野菜が用いられていたそうなのですが、現代では具材はビーツ、ニンジン、ジャガイモ、発酵させたキュウリ、玉葱を基本とし、好みでハムやキャベツを加える程度。これらの具材をどれもほぼ同じ大きさに角切りし、酢、塩、コショウ、砂糖に油を合わせたドレッシングをかけます。

 ドレッシングをかけるとビーツの赤紫色が溶け出して、他の具材を同じ色に染めてしまいます。だからこそ、ビーツかと思って口に入れたのがキュウリだった、などの意外性が楽しいサラダです。「ヴィネグレト」とはロシアでは本来「酢が入ったサラダ」ほどの意味なのですが、現在ではビーツの入った赤いサラダこそが「ヴィネグレト」なのです。


 ここからは、「ロシアのパンとお菓子」に載っていた「スィルニキ(焼きチーズケーキ)」を作ってみた感想と味をレポしていきます。

 まず、水気を切ったカッテージチーズで代用できるそうなのですが、スィルニキの材料であるトヴォロークを作るところから始めました。

 本に載っていた通り、牛乳とヨーグルトを混ぜて沸騰させて濾します。スィルニキ作りに使うトヴォロークは水気が抜けたやつがいいそうなので、今回はしっかり水を切りました。

 すると、牛乳+ヨーグルト1300gから約230gのトヴォロークができました。今回作ったトヴォロークの味は、淡白であっさりとしたクリームチーズという感じです。水をどれぐらい切るか、使う牛乳の乳脂肪分やヨーグルトの酸味の程度によってもできあがるトヴォロークの量や味は変わるでしょうが。牛乳を一部生クリームに置き換えてみても面白い結果になるかもしれませね。牛乳とヨーグルトを混ぜ合わせてすぐ火にかけるのではなく、発酵を進めてみてもいいかも。


 話は少々逸れてしまいましたが、早速スィルニキ作りの過程を。トヴォロークに砂糖をよく混ぜ、更に卵とレモン汁と小麦粉とベーキングパウダーを混ぜます。そして生地に打ち粉を振って平べったい円形にしたら、大目のサラダ油を敷いたフライパンで両面狐色になるまで焼く。冷めたら粉砂糖を振って出来上がりです。

 味はトヴォロークの風味とレモンの酸味、砂糖の甘味のバランスがちょうどいい。あっさりしているので幾らでも食べられそうな、ある意味危険なお菓子でした。今回はレシピ通りに仕上げに粉砂糖を振りましたが、蜂蜜やジャムを付けてもいいかも。ロシアのコンポートたるヴァレーニエと一緒の皿に盛って出したら、それだけでもう立派なデザートになりそうです。また、サラダ油ではなくバターを使って焼いたら、味わいにリッチな感じが加わるかもしれません。 

 なにはともあれ、スィルニキを食べてみたい方は、ぜひ「ロシアのパンとお菓子」を手に取ってみてくださいませ~。

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