前菜 ①ロシアの前菜とは

 現代ロシア人の「きちんとした食事」は基本的に、以下のような順で給仕されるものを指します。


前菜ザクースカ

②第一の料理ブリュード(スープ)

③第二の料理ブリュード(メインディッシュ)

④デザート

 ※レストランによってはサラダやパン、付け合わせの野菜が別項目で乗っていた李、飲み物のリストが続いたりするメニューもある。


 もちろん、家庭や学食や社員食堂でも必ずこの順でフルコースを食べているわけではありません。それに、歴史的に考えればこういったコース料理は、貴族や裕福な階級の習慣でした。しかも、かなり奥の人数が食卓を囲み、相当な時間をかけて食事をとるということが前提になった習慣です。貧しい農民の場合は、肉なしスープにパンだけで済ませる場合がほとんどだったのだから、料理を出す順番もへったくれもなかったでしょう。

 ですがこの給仕法は普遍的なものとして定着し、ロシアの人々の食習慣の一部になっているのです。家庭でも、三度の食事の中で最も重要な正餐オベート(英語のディナーに相当)では、概ね上記のコースの流れにそって食事が出されます。という訳で、今回からはまず前菜について述べていきます。


 ロシアの食事はまず、日本語では一般的に「前菜」と訳されるЗакускаザクースカから始まります。ザクースカは「ちょっとつまむ」「酒の肴をつまむ」といったニュアンスの動詞に由来しています。事実ロシア語では十八世紀まで「ザクースカ」という単語は、独立した料理の部分を指すのではなく、「~の口直しにつまむ」「~の肴に食べる」という時に使うのが普通だったそうです。

 ある料理研究家によると、「ザクースカ」は十八世紀初頭では、朝食の同義語として使われるのが多かったのだとか。この時代の朝食では前日の夕食の焼き物料理の残りを温めずそのまま出していたため、十八世紀半ば頃から冷たい料理は一般的にザクースカと総称されるようになったそうな。そのため、現在ザクースカには温かい品もありますが、冷たい品の方が中心になっています。


 十九世紀にはザクースカのメニューに、ドイツ料理やフランス料理から冷たいオードブルの類が加わりました。ですがザクースカは本来、残った冷たい物を軽いつまみとして出す、つまり料理以前のもの。ただし、ザクースカは種類は豊富だし本格的な食事の場合は量も驚くほど多いしで、決して侮ってはならない存在です。

 ちなみに、ザクースカは出し方や出す時間にも歴史的な変遷がありました。貴族や裕福な層のきちんとした食事の場合は、ザクースカは食事とは完全に別に、食事が始まる大分前にウォッカと共に玄関の間で出すものだったのだそうです。ですが時代が下ると悠長なやり方はできなくなったので、十九世紀末から二十世紀初頭ぐらいには食事の一部で、最初に食べるものという認識が固まったそうな。


 上の方で述べたようにザクースカには


・冷たいザクースカ

・温かいザクースカ


 の二つがあります。温かいザクースカの代表は金属製の小皿にキノコなどを入れ、スメタナをかけて焼いたロシア風グラタン「ジュリエン」なのだそうです。

 冷たいザクースカには、野菜の漬物ピクルスや魚の塩漬け、肉の燻製だけでなく、サラダや煮凝りストゥージェニなど色々あります。

 漬物にされるのは、キュウリ、キャベツ、キノコなど。ロシアは夏、ひいては新鮮な生野菜を食べられる期間が短い。なので、野菜を塩漬けや酢漬けにして長期保存し、生野菜を食べられない期間をしのいでいたのですね。

 魚のザクースカになるのは鮭やニシン、それにチョウザメ。チョウザメはもちろん卵、つまりキャビアも高級なザクースカになるのですが、ロシアでは身もよく食べられるのだそうです。

 牛、豚、鶏の肉や魚を使った煮凝りやゼリー寄せホロジェーツはザクースカとしては豪華な品で、周りにゆで卵やニンジン、ハーブを飾ると華やかになって、もてなし料理にぴったりです。

 

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