乳製品
今回は乳製品の話です。と、いってもロシアだけしか見かけない乳製品はあまりないのですがね。ですがその中でもロシアのカッテージチーズたるトヴォローク(トヴァロークとも)とロシアのサワークリームたるスメタナは特筆に値します。ということで、トヴォロークから。
まず、トヴォロークの前に、カッテージチーズの説明をさせてください。だって、中にはカッテージチーズとは何ぞや? と思われた方が絶対にいらっしゃるでしょう?
カッテージチーズとはオランダ原産のフレッシュチーズです。なお、フレッシュチーズとはミルクから直接作られるナチュラルチーズのうち(ナチュラルチーズから作られるチーズがプロセスチーズです)、殆どあるいはまったく熟成させず、水分が多いもののことを指します。
カッテージチーズは酢やレモン汁をミルクに加えて凝固させ、水洗いして酸味を抜いた後に水気を切るという比較的簡単な方法で作れます。そのため、カッテージチーズと類似したチーズは世界中に広く分布しているのです。
だったらロシアのトヴォロークだって、カッテージチーズの一種という扱いでいいじゃないかと思われるかもしれません。ですが、トヴォロークはその位置づけが他の類似のチーズと異なるのです。
カッテージチーズとチーズの関係を命題で表しますと、
英語では
〇
カッテージチーズ⇄チーズ
✕
つまり、カッテージチーズはチーズの一種という扱いです。ですがロシア語では、
✕
トヴォローク⇄スィル(ロシア語でチーズの意味)
✕
つまり、トヴォローク(カッテージチーズ)は、スィル(チーズ)と別物として扱われているのです。
また、そもそもロシアではスィル(チーズ)は朝食の時などによく食べられるものの外国に知られる銘柄があるわけでもなく、はっきり言ってあまり発達してはいません。ですがトヴォロークは様々な料理にデザートにと、大活躍しています。
すりおろしたトヴォロークを果実の砂糖煮と合わせてもいいし、様々な種類のチーズケーキの材料やパイのフィリングにできる。ピロシキの具にもできる。またトヴォロークは、復活祭には必ず作られるパスハという伝統的なケーキの主材料でもあります。完全にスィル(チーズ)を食う活躍ぶりです。
ちなみに、トヴォロークがどのように作られるのかというと、ロシアでは全乳を室温で数日かけて自然発酵させ、そこから
こうして作られたトヴォロークのこれまたシンプルな味わいは長く食べても飽きがこず、様々な料理に広く応用できるのです。それに、原料となるミルクやその脂肪分に発酵方法、乳清の分離方法などの違いによって味も香りも様々なヴァリエーションが生まれます。作り方や条件によって毎回微妙に味が違う。それこそがロシアの手作りトヴォロークの魅力なのです。
お次はスメタナです。このスメタナ、簡単に言ってしまえば乳脂肪分の高い生クリームを乳酸菌で発酵させたものです。元々は酸敗(酒類や油脂などが細菌や熱、水分などの作用を受けて酸化および分解し、色や味、においなどが変化して酸味を呈する現象)して凝固した牛乳の上に浮いてきた層から作られたものなのだそうな。現代の工業生産では、最初に牛乳から生クリームを分離し、そこに乳酸菌を加えて発酵させて作っているそうです。
スメタナは発酵食品なので、当然僅かな酸味があります。作り方が同じなのだから、味だって欧米や日本で作られるサワークリームと同じはずなのに、トヴォローク同様ロシア独特の味わいがある。スメタナはサワークリームよりも淡白でありながらまろやか。コクを出すために様々な料理に加えるとしっとりと仕上がり、何より決して料理の味を損なわないそうです。
ロシア人はスメタナを色々な料理にかけて食べます。ボルシチにもシチー(汁物)にも、ロシア風水餃子たるペリメニにも。また、肉や魚、野菜にスメタナをかけてオーブンで焼いたり炒めたりもします。つまり、スメタナはロシア料理においてフランス料理におけるソースと同様の役割をある程度果たしている、日本の醤油のような存在なのです。
なお、「家庭で作れるロシア料理」では米入り肉団子のトマト煮込みに、ヨーグルトと生クリームを混ぜて現地の味わいを再現したスメタナをかけて食べるというレシピが紹介されていました。実際その通りに作ってみた所、とても美味しかったです。スメタナのコクがありながらさっぱりとした味わいが、ジューシーな肉団子と非常にマッチしていました。地元の直産所でビーツを見つけたのでボルシチを作って、スメタナのあるなしを比較して食べ比べたこともありますが、スメタナがあった方が美味しく感じましたね。
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