カーシャ その①
まず、「カーシャとはなんぞや?」と思われただろう圧倒的多数の方のために説明を一つ。カーシャとは穀物(小麦に蕎麦、燕麦、米など)の粒やその
お粥をパンの具にする、と聞くと「はあっ!?」と思われる方もいるかもしれませんが、「焼きそばパン」などというパンの存在に違和感を抱かない日本人が言えたことではないでしょう。
カーシャの味付けは塩を入れたり、砂糖で甘くしたりと様々。これもまた一般的な日本人の感覚だと「げっ」という感じかもしれませんが、米のカーシャの場合だって牛乳で煮てバターと砂糖で味付けすることももちろんあります。ですが日本人だって米と餡子でおはぎを作る一方で、米に鮭やタラコなどの塩気のある具を入れたおにぎりを美味しくいただくのですから、カーシャの味付けを気持ち悪いと非難する資格はないでしょう。
カーシャは味同様、濃度も様々です。薄めの場合は穀物対牛乳(ないしは水)=一対四から一対五なのだそうな。ただ、ロシア人が最も好むという蕎麦のカーシャの場合はお湯で煮るのが普通で(ただし、「家庭で作れるロシア料理」では仕上げに牛乳をかけて食べる、というレシピが紹介されていました)、仕上がりもぼろぼろした粒状になるそうな。そのため、蕎麦のカーシャは肉料理の付け合わせにも使われます。材料は違えど同じカーシャが、クルミや果実の砂糖煮などを加えてオーヴンで軽く焼けばデザートして供されることもあるのに。
つまり、ロシア語では穀物を水や牛乳で煮た物は全てカーシャと呼んでいるのです。十九世紀半ばには、エゾライチョウなどの家禽の肉を入れ、ブイヨンで煮込んだグルメ志向のカーシャも考案されたのだとか。
カーシャは古代からシチー(スープのこと。詳しくはそのうち)と並んでスラヴ人の間では重要な食べ物とされていました。「シチーとカーシャがわれらの食べ物」ということわざもあるぐらい。ちなみにこのことわざ、ロシア語の発音では「シシー・ダ・カーシャ・ピーシシャ・ナーシャ」とシーの音を重ねた音遊びにもなっています。
カーシャは「日常」と「祝祭」のどちらにも属する食べ物です。まず日常の料理としてのカーシャの側面を述べますね。
カーシャは流石に現代では食卓の主役の座から退いていますが、かつては庶民が毎日口にしていた品でした。今でもなお多くのロシア人にとって「おふくろの味」を象徴する、ロシア人の食生活の基盤に根強く残っている料理なのです。「カーシャがなければ食事とは言えない」ということわざがあるくらい。
ことわざ以外では、「
カーシャのことわざは他にも沢山あります。その一つである「バターが多くてもカーシャはまずくならない」は、「多多ますます弁ず(多ければ多いほどいい)」を意味します。バターが入っていないカーシャなど考えられないぐらい、むしろバターが多ければ多いほどカーシャの味は良くなると考えられているということを踏まえると、その意味が理解できるのではないでしょうか。カーシャとバターに関することわざには「カーシャを炊いたからにはバターを惜しむな」つまり「何かを始めたからには労力を惜しむな」という、「乗り掛かった舟」と同じ意味のものも。
次に祝祭の料理としてのカーシャについて述べていきます。カーシャは結婚、出産、子供の洗礼、死者を送り出す際(葬儀)といった人生の節目や家の起工や完成の際に振る舞われる一品でした。日本でも餅まきとかしますものね。更に、敵同士が平和条約を結ぶ際にもカーシャを煮るのが習わしで、そのため現代でも話し合いが上手くいかないと「あいつとはカーシャを煮ることはできない」と言うそうです。
子供の洗礼祝いのカーシャは「お産婆さんのカーシャ」と呼ばれます。昔は産婆さが自分の取り上げた赤子の無事を祝ってカーシャを用意していたという慣習に起源があるそうです。またこのカーシャは通常のカーシャとは異なり、碾割りの麦を大目の牛乳で煮て、バターにクリーム、卵をたっぷりと入れるのだそうです。これには産婦さんに栄養を付けさせようという意図も感じられますが、実際の所はどうなんでしょうね。
新生児の洗礼は赤子を魔物から守る厄払いの儀式でもあり、そのお祝いは家庭で行われます。洗礼祝いの主客は、粥を持ってくる産婆さん。他には近親者やかなり親しい友人が贈り物やご馳走を携えて訪れますが、赤子を見舞えるのは子供を持つ既婚の女性だけなのだそうです。
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