インド その④

 今回は主に高級娼婦についてです。

 実は古代及び中世のインドでは売春は一つの生き方として認められていて、女性に門戸が開かれた数少ない職業の一つでもありました。もっとも、この章で何度も出てきたように、男の欲望を満足させるために必要だから、なのでしょうが。

 娼婦はあらゆる町に沢山いて、大抵は公共の井戸の周りや人通りの多い場所にたむろしていました。で、旅人を歓迎する際は呼ばれて踊りを披露したりしていたのだそうな。また、著名な人物が正式な訪問をする際は高級娼婦の群れを引き連れていくことが通常の儀礼だったし、国家的な行事の際は王に仕える娼婦がその側に侍らなければならなかったのだとか。こういうの、一昔前には沢山あった会社の接待でキャバクラに~というのと何だか同じ臭いがしますね。

 他にも娼婦は、狩猟の旅のみならず、軍隊の行軍に従うこともあったそうです。で、軍隊の道中の飲食の世話をして、実際に戦闘が始まったら傍らで見守って兵士をけしかけていたそうな。

 また、娼婦は赤い服を身に着けることで一般の女性と区別されていて、これは男が娼婦を探す際に役だったり、良家の妻女が知らずに娼婦と接触するのを防ぐためにも有効だったそうです。ところで、どうして良家の妻女は娼婦と接触したら駄目なんでしょうね。……まあきっと、この部分の資料を書いた人は、娼婦と良家の妻女をヘタに接触させたら悪の道に引きずり込まれるに決まってる、とか考えてたんでしょうけど。


 娼婦の役割について取り上げられた古い記録の中で、完全に残っているものの一つが『実理論アルタ・シャーストラ』。マウリヤ朝初代チャンドラグプタ王の宰相兼軍師で、「インドのマキャヴェリ」と称されるカウティリヤ(紀元前350年~紀元前283年)の著作です。といっても、『実理論』は国政や帝王学についての本なので(読んだことはない)、国政の部分で売春婦の地位などについて触れられているだけなのでしょうが。

 『実利論』によると、売春は国家により認可、組織化された確固たる一つの制度であり、遊女長官ガニカーディヤクシャなる娼婦の監督者もいたそうです。

 遊女長官は高級娼婦となるに相応しい容姿と技芸の腕を持つ売春婦を、高級娼婦と認める権利を持っていました。こうして認められた高級娼婦は、国家から店を開く助成金1000パナを与えられました。この1000パナという価格にどれくらの価値があるのか、私は寡聞にして存じ上げませんので、ご存じの方がいらっしゃったらご教授ください。


 高級娼婦が経営する店の規模が大きい場合は、遊女長官から任命された補佐の役人・プラティガニカーが監督に当たります。店の経営者である高級娼婦が死亡したり仕事をやめたりした場合は、店の経営を続けることを条件に、その娼婦の姉妹や娘、時には母親に与えられました。しかし後継がいない場合は、王家の所有に帰したのだそうです。

 (本ではただ「売春婦」とだけ述べられていたのですが、前の文脈から察するに)認められた高級娼婦は三つの階級に分類され、それぞれ1000、2000、3000パナの給料が支払われたのだそうです。と、いってもこれが凄いことなのかどうかは、その給料が支払われる頻度にもよるしなあ。ナンボ金貰ったとしても、それが年一とかだったら、よほどの額じゃない限り、ねえ……? 逆に、頻繁に貰えるとしてもしみったれた額だったら、ええ……という感じですし。

 まあとにかく、最上級の娼婦は王に付き従って公式の行事に出席し、中級は王家の妻たちの求めに応じて公式の式典に参列し、下級は王の個人的な欲求に応じたのだそうです。つまり、最上級と中級は華やかな雰囲気の水増し要員だったんですかね。

 

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