イスラーム その②

 イスラームの掟では妾を持つことも認められていました。コーランでは、妾にしてもよい女性というのが決められていて、アブラハムの宗教を奉じていない女性、捕虜を除く既婚女性がそれに該当します。また、妾にも妻にもしてはいけない女性というのも定められていて、


 自分の母親、祖母、娘、姉妹、おば、姪、義理の母、義理の娘、乳母、同じ乳を飲んで育った女(乳きょうだい)


 などが禁止されていました。例から察するに、つまりこれらの女性とは肉体関係を持つなということでしょうね。

 一方、女奴隷の場合は、主人の子を産んだ場合は彼の死後自由を与えられていました。中には「俺の子じゃない!」などと主張する者もいたけれど、イスラームの法律家は、主人が奴隷と関係したらその奴隷の子の父親であることを否定する権利はない、と考えていたそうです。もし彼が、奴隷や妾相手の場合に許される避妊法である膣外射精を行っていたとしても。

 また男は、自分の妾や女奴隷を売り飛ばすことはできても、利益を得るために彼女らに売春させることは、彼女らが嫌がっていれば無理強いできなかった。でもやはり自分の奴隷や妾に売春させる男はいて、だからなのかハディースには、奴隷の娘が売春で稼いだ金は主人がピンハネしてはいけない、という戒めがあるそうです。


 ちなみにコーランでは、女を売春のかどで訴えるには四人の男の目撃者が必要です。有罪とされた女はある章では死ぬまで家に幽閉される、またある章ではしもと打ち百回の刑に処せられると決められているそうな。ただし、その訴えが間違っていると分かったら、彼女を突きだした者たちの方が八十回笞で打たれました。

 なお、本では証人は全て男でなければならないとされたことは、結果的に売春婦が十分注意しさえすれば、多少は自由が利くようになった、と書かれていました。これ、なんとなく分かるような気がします。たとえ罰則が設けられているにしても、嫌いな同性を排除するためだったら、その女を嫌いな女をあと三人集めて虚偽の申告をするぐらい、女だったら普通にやりますし。こういう時の女の団結力と残酷さを舐めてはいけない。罰は生涯幽閉or笞打ち百回(今更ですが、笞とは木製の鞭のことです)ですから、もしかしなくとも嵌められた女は死んでしまって、死人に口なしになるでしょうから、賭けに出てみる価値は十分あります(←ゲスの考え)。


 キリスト教同様、イスラームでも普通の家庭やハーレムにいる女性を守るための必要悪として大目に見られていました。というか、イスラーム社会ではどうあっても男女比が一対一にはならず生涯結婚できない男達が出て来るし、かたぎの女性を誘惑するのは恥ずべき行為だとされていたので、売春を撲滅するなどできない相談だったのです。イスラームでは、男が貞節を守ることは美徳であっても、禁欲は美徳ではないのですから。ということで、イスラーム社会にも有名な娼婦や、高級娼婦が連綿と存在し続けました。

 とはいえやはり、イスラーム社会でも一族から売春婦を出すのは大変な恥。売春婦は一家の面汚しとして一族から攻撃される恐れもありました。ただし、全てのイスラームが娼婦を排除しようとするのではなく、逆にそういう女がいるというので評判となるところもあったそうな。……こういうの、すごく人間だなあという感じがします。


 イスラーム社会で売春で身を立てるのは、身寄りのない孤児に売春させるために外から連れてこられた者たちに、配偶者や主に捨てられた女たち。加えて売春婦の娘といった、庇護してくれる男性の親族を持たなかったり失ったり、あるいはその魔の手から逃れてきた者たちでした。彼女らは特別な市や縁日を見せたり、比較的広い地域では街路をうろついたりして、生計を立てていたそうです。さもなくば、戸口に目印の旗をかけた家に閉じ込められているか。

 なお、カイロやベオグラードといった比較的大きな街では、富貴取り締まりのための検閲官がいて、彼らは犯罪者を笞で売ったり市中引き回しにしたり晒し者にしたりする権限があったのですが、結局せいぜい売春をあまり目立たせなくする程度の効果しかなかったのだそうです。

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