古代ローマ その④

 前回述べたように、たとえ高級娼婦でも社会的な地位は決して高くなかった古代ローマ。そのためなのか、古代ローマではプロの売春婦は古代ローマの最高位の女神にして、女性と結婚の守護神ユーノーの神殿に近づくことを禁じられていました。お前らなんかが近づくと女神ユーノーさまの神聖な神殿が汚れる! という理由で。

 古代ローマでは、売春婦は女性の守護神の神殿に近づくことができなかった。このことは、これまで述べてきたどんな事情より、古代ローマの売春婦が社会的弱者だったことを表しているような気がします。女性を守る、最高位の女神に縋れなかったのなら、古代ローマの娼婦たちは一体どの神に祈っていたんだろう。ウェヌスとか?


 なにはともあれ古代ローマでは、夫や父親、もしくは祖父が騎士エクイテス(古代ローマの貴族階級たるパトリキのすぐ下の階級)だった、もしくは以前そうだった女性は売春婦として登録することを禁じられてもいたそうです。

 上記の決まりを破ると罰金刑を処せられるだけでなく、ときに実刑を課せられることもあったのだとか。しかも、知ってか知らずかこうした女性と致してしまった男性は、人の道に背く不品行、あるいは姦通を犯したとして告発されることもあったのだとか。あー、なんかこういう罵り文句、政敵をバッシングする際にめちゃくちゃ言われてそう。あいつは騎士の娘と寝た、不品行で恥知らずな男だ! とか。ま、実例は一つも見かけたことありませんが。


 売春婦(と姦通した女性)は、良家の女性とはっきり区別するため、当時の男性の装いに似た、短いトーガ風のガウンを着るように定められていました。また売春婦は一般の女性よりは明るい色の服を着ていたし、目立つように髪を脱色している者も多かったそうです。でも、こういった規制の一部が緩和されてくると、有名な高級娼婦がファッションリーダーになることもあったのだとか。でも結局はその結果、売春婦を取り締まる新たな法が作られることになったそうですから、うーん。


 他、売春婦に関する禁令には、結婚に関するものがあります。古代ローマの市民は、売春婦もしくは売春したことがある自由民の女性とは結婚できたけれど、売春した経歴がある女奴隷とは結婚できなかった。しかも売春したことがある女奴隷は、たとえ奴隷の身分から解放されても、市民権は与えられなかったのです。売春宿の経営者は、税金を納めさえすれば市民権が貰えたのに。

 ちなみに、上記の元売春婦との結婚に関する禁止は、元老院議員になると「売春したことがある女性、もしくは先祖に売春婦がいる女性とは結婚できない」までになります。本人ならばともかく、先祖に売春婦がいるのも駄目だなんて、厳しすぎですよね。


 これまで述べてきたように、本当の本当に社会の底辺として扱われていた古代ローマの娼婦。そういや、その②で入れ忘れていたからここでしれっと述べさせていただきますが、売春婦の監督や取り締まりは按察官アエディリスに委ねられていて、彼らは売春婦に課せられた税金や手数料を徴収するため、定期的に売春宿を訪れていたそうです。

 で、当然のごとく権力を振りかざして甘い汁を吸おうとする按察官はいたけれど、見つかれば罰を受けた。また、ある按察官がむりやりある売春婦の部屋に入ろうとして殴られて昏倒したため彼女を訴えたところ、その時当該の按察官は按察官の証を身に着けていなかったため、訴えられた売春婦は無罪となったそうです。按察官は公務以外に娼婦の部屋に入る権利はなく、按察官の証を帯びていない者に部屋に押し入られた娼婦が、自分の財産を守るべく行動を起こしたのは当然のことだと。

 と、いうことは売春婦にも最低限の自己防衛の権利ぐらいは許されていたのでしょうか。でも、本当に最低限だなあ。しっかし、女の部屋に無理やり入ろうとしたら殴られて倒れたから、殴った女を訴えるとかどうよ? この按察官、人間としての器小さすぎません?

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