古代ローマ その①
今回からは古代ローマ編に突入します。
古代ローマの文化は古代ギリシアの文化から多くの影響を受けたのですが、古代ギリシアでヘタイラが男達のロマンとも言い換えられる憧憬の的だったように、男達の敬意を集める娼婦というのは古代ローマには存在していなかったそうです。
古代ローマの人々にとって売春とはなくてはならない、しかし賤しい職業でしかなかった。娼婦を指す一般的なラテン語
古代ローマで娼婦が課税されるようになったのは紀元一世紀、カリグラ帝の時代からだそうで、その内容は「いかなる日にも客一人分の収入を払うべし」だったとか。ちなみに正式に課税される以前は、娼婦もしくはふしだらだと見做された女は、特別な寄付を求められていたそうです。紀元前四世紀のサムニウム戦争(共和制ローマとサムニウム人の、イタリア半島の諸部族の主導権を巡っての戦い)では、こういった寄付でウェヌス(英語ではヴィーナス)の神殿を建てたそうな。
このことは、詩人ウェルギリウスが叙事詩『アエネーイス』で謳った、ローマ建国の祖である英雄アイネイアースの母がアプロディーテ(ウェヌスはアプロディーテと同一視される女神)であることと関係があるのかも。なお、古代ローマでは本来は売春と宗教は関係がなかったけれど、ローマ帝国の勢力が中東にも及ぶに伴い、古代オリエント編で述べた神殿娼婦という風習も神々と一緒にローマに入って来たのだとか。
ちなみに、アイネイアースの妻となって、ローマを建設したロムルスとレムスの双子の兄弟の祖となる子を産んだけれど、『アエネーイス』ではちらっとしか触れられないらしいイタリアの一地方の王女ラウィーニア(※アイネイアースはトロイア戦争の敗者側の生き残りで、新天地を求めてイタリアにやって来た)が主人公の小説があるのですが、私その物語がめちゃくちゃ好きです。
詩人ウェルギリウスと、建国神話の人物であり、彼の詩の登場人物でもあるけれどもウェルギリウスにはあまり語られなかったラウィーニア。この二人がどういうわけか出会い、語り合うのがめちゃくちゃエモい。タイトルはそのものずばりで「ラウィーニア」なので、興味を持たれた方はぜひぜひググってみてください。読んでいると、古代イタリアの、神話の時代の聖なる森の息遣いが聞こえてくるのです……。
ちなみに、「ラウィーニア」と同じ系統の、同じくらい好きな小説を幾つか挙げるとすれば『フローリアの「告白」』ですかね。聖アウグスティヌスの恋人で、彼の子供も産んだけれど、アウグスティヌスがキリスト教徒になったのをきっかけに捨てられてしまった女性が、別人のように変わってしまったかつての恋人に送った手紙が発見されて……という構成。
あと忘れちゃいけないのが、大大大名作の「クオ・ワディス」。舞台はネロ帝の御代の古代ローマ。皇帝ネロの側近の甥ウィニキウスは、古代ローマ的蛮族の一つリギ族の姫リギアに一目ぼれした。最初は、部族からローマに差し出された人質であるリギアを権力に物を言わせてモノにしようとしたぐらいの、ろくでもないボンボンだったウィニキウス。彼が、恋した女性が信仰するキリスト教に出会って成長していく物語です。
信仰に目覚めたウィニキウスはリギアとも将来を誓い合う仲になるが、当時キリスト教は禁じられた教えで、ネロ帝の治世といえばそう――キリスト教徒大迫害。二人の、いやキリスト教徒たちの運命は一体どうなる!? というハラハラドキドキの裏で、ヘレニズムとヘブライズムがぶつかり合うという、壮大な歴史物語です。
私の小説語りはここまでにして話を本題に戻しますね。上記の「いかなる日にも客一人分の収入を払うべし」って、一見だけだと「なんだ一人分だけか~」と思っちゃうけど、よく考えたら生理や病気になって客取れない日の分の税金も納めろってことですよね? そしたら一ヶ月のうちに働けない日が生理の七日間だけとしても、実際取られるのは最低でも、働けた日に取った客約1.3人分の収入だったのかも。これが安かったのか高かったのかは、その売春宿が定める一回当たりの料金や、当時の娼婦がこなした一晩当たりの平均回数、売り上げのうちどれぐらいの額が娼婦の手に渡ったか、当時の物価などの諸条件を考慮しないと判断できない。
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