古代ギリシア その④
今回はまずヘタイラの、ウィットに富んだ客との受け答えを幾つかご紹介します。
まず、あるヘタイラはひいき客である劇作家にワインを振る舞い、劇作家にこのワインは冷たくて美味しいと褒められると、「あなたの戯曲で冷やしましたの」と答えたそうです。カッコいい~。こういう受け答えをパッとできるなんて、とても頭の回転が速い女性だったんでしょうね。しかも、これに怒るか笑うかで、客の器も計れるという。また彼女は、別の客から十六年もののワインを贈られた際、「十六歳にしてはずいぶん小柄だこと」と答えたそうです。
また別のヘタイラは、一度袖にしたことがある高齢の彫刻家が若作りして自分に言い寄ってきた際、「昨日あなたのお父様にお断りしたことを、あなたに許してさしあげるわけにはまいりませんわ」と断ったそうです。またこのヘタイラは「これまでで最も偉大な征服者」とも呼ばれていたそうな。
上記のように、ヘタイラの中には非常に頭の回転が速くまた教養――過去の伝統文学から、当時最新の文学まで――もある女性がいました。なぜなら、優秀なパトロンを会話でも楽しませなければならないからです。ただそんな賢く美しいヘタイラも、結局は男社会では弱い存在でした。大勢のヘタイラは結局、終いには恋人に捨てられていたそうです。
さて。娼婦は古代ギリシアにおいても重要な位置を占めていたのですが、古代ギリシアは言わずと知れた男性優位社会です。女が下に見られる社会において、女のヒエラルキーの最底辺に位置する者が、重要な位置を占める。これは結構不思議なことですよね。こういった価値観は様々な要因が絡み合って醸成されたのでしょうが、その要因の一つとして、本では面白い説が述べられていました。
曰く、古代ギリシアの家庭、ひいては子供は全て母=女の強力な支配下に置かれていた。つまり女たちは、息子を自分に服従させることで、自分を窮屈で退屈な家庭に閉じ込めて家政婦扱いする男達に復讐していた。
自分を支配する母=女に対する深い劣等感を抱いて育った男性は、女など取るに足りない存在だと自分に言い聞かせようとするが、女=母に対する劣等感からは逃れられない。むしろ、本当は男こそが劣った存在ではないかとすら思ってしまう。だから古代ギリシアの成人男性は、自分の妻を貶めるために娼婦にはしったり、同性愛に加わったり、あるいはその両方を行ったりしたのだろう、と。
大変面白いですよね、この女の苦しみと男の劣等感の無限ループ説。どうにもならないどんづまりという感じがして。女は息子を通して男に復讐することで、他の女(息子の妻)の苦しみを生み、男が母=女=妻への劣等感から逃れようともがけば、生じた歪みは息子が背負うことになる。苦しみと劣等感が世代を超えて延々と紡がれる。これぞまさにギリシア悲劇……。
あと、古代ギリシアでは既に、セックスは邪悪ではないけれど良くないものだと認識されていたそうです。色んな哲学者がさまざまな説を述べていたそうです(本でも結構詳しく述べられていたけれど、売春には関係ないので割愛)。で、セックス、ひいては肉欲を良くないものとする考え方は後の時代にも受け継がれ、更に発展して、西洋文化は「娼婦の存在は認めるけれど、その制度には敵意を表す」という複雑かつ矛盾した態度を取るようになったそうな。
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