茅、百合、芭蕉、山椒

 今回の最初は、ちがやです。茅はイネ科チガヤ属の植物で、日当たりがよい原野や路傍の草地に群生しています。確かに、私が住んでいるド田舎(家から半径二キロぐらいのところで猪の目撃例あり)(帰宅途中、小鹿を見かけたこともある)(キジも見かけたことがある)にはよくそこらへんに生えています。

 茅は五月や六月に、絹のような光沢のあるふわふわとした白い穂をつけます。その様子、私は子供の頃から白くて毛が長い猫の尻尾のようだと思っていたのですが、古代中国の人々は女性の手を連想したそうです。特に、風に揺れる茅の若穂は男性を誘い招く女の白い手のようだと。そして、そこから茅は女性が男性に想いを伝える恋のシグナルになったそうな。

 こんなに可愛い茅ですが、地下にしっかりとした長い根を匍匐させる(この根が「朋友・同士」の象徴とされることもある)ので、「世界最強の雑草」と呼ばれることもあるそうです。そんな厄介な茅ですが、花穂は止血剤として、根は妊娠時のむくみや急性腎炎に対して効果があるとされています。

 これまでも述べてきたように、妊娠中に起きる病気に効果をもつ植物は子授けの力があるとして男女の愛情のシンボルとされていたので、そういった意味でも茅は女性が男性に想いを伝える恋のシグナルとされたのかもしれませんね。


 お次は、皆知ってる清らかで気高い花・百合についてです。

 百合はもちろん中国でも古くから愛されていた花で、既に六世紀には宮廷で栽培されていたそうです。けれども古代は美しい花よりも薬効がある鱗茎りんけいの方が重視されていたとか。

 ところで、百合は「年好(夫婦が共白髪になるまで仲良く暮らす)」や「意(全てのことが意にかなう)」といった吉祥の意味に通じるめでたい花として、結婚式や誕生日の贈り物として好まれてきました。特に、花嫁となる女性に贈ると良い子供に恵まれるという言い伝えもあり、別名「送子仙そうしせん」とも呼ばれているそうです。また、広東地方では結婚披露宴の際、料理の締めくくりに百年好合湯ひゃくねんこうごうとうという、百合根入りの甘くておいしいスープが振る舞われるそうです。百合の「合」は「和合」の「合」ですからね。


 お次は芭蕉。皆さんご存じの通り芭蕉の葉はとても大きいし、草丈は時に四、五メートルにもなるので、夏の厳しい日差しを遮るために庭園に好んで植えられていたそうな。ちなみに、芭蕉が「緑天りょくてん」とも呼ばれるそうなのですが、それは大きな葉が広がった林を見上げると、天空が緑色になったように見えるからだそうな。

 なんとも美しい名のもとになった芭蕉の葉。なおこの葉は、南方では食器の代わりとされる他、布や紙の原料として、大いに人々の生活を助けてきました。

 また、芭蕉の葉を加工せずにそのまま紙の代わりとすることもあったようで、中唐の詩人・韋応物いおうぶつは地方に仮住まいしている最中、都にいる弟たちに会いたいけれどそれもできないので、せめて弟たちへの思慕の想いを芭蕉の葉に認めた。という詩を残しています。そしてこのことから、芭蕉は「兄弟愛」や「弟たち」の象徴ともなったそうです。


 最後は、麻婆豆腐には欠かせない花椒ホアジャオ(和名:カホクザンショウ)について。

 花椒はミカン科サンショウ属。そういえば、山椒の実はどことなく柑橘っぽいですものね。花椒は古代には神を迎える巫術師が用いる呪草ともされていたそうなのですが、一般的には「多子」や「子孫繁栄」の象徴でした。無論、花椒の非常に多くの実を付ける性質ゆえです。

 また、「詩経」に花椒の枝を女性が気になる男性に贈る詩が収められていること、さらにジャオは交会のジャオと通ずることから、花椒は密会(意味深)の意図をも込めた愛の贈り物とされていたとも考えられるそうな。

 ちなみに、漢代の皇帝の妃たちの居室の壁には花椒が塗りこめられていたため、椒房しょうぼうと称されていました。椒房は、花椒のように沢山の子に恵まれるようにと願いがこめられた、類感呪術だったのです。

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