椿、松とヒノキ、菖蒲

 今回からは、一話につき一つの植物ではなく、一話で幾つかの植物のことをまとめていきますので、よろしくお願いいたします。


 まずは椿について。で、肝心の椿の花卉語について触れる前に、一つ重要なことを説明します。それは、椿は中国語では山茶さんちゃということ。こんな風に書かれたら山茶花さざんかとうっかり間違えてしまいそうですが、お気を付けくださいね。ちなみに、山茶花は中国では茶梅と呼ばれているそうです。

 椿の近縁種には山茶花(茶梅)の他にもリュウキュウサザンカ(油茶ゆちゃ)、唐椿トウツバキ雲南山茶うんなんさんちゃ)、金花茶きんかちゃ、それに茶などがあります。で、中国では前述の植物のうち、茶を除く四つやそれらの園芸種もひっくるめて山茶、もしくは茶花と呼んでいるそうです。だいぶ面倒になってきましたね。


 ではでは、椿(山茶)の花卉語を~。椿は葉が四季を通して常緑で、しかも秋から春にかけてという長い間、花が少なくなる季節に美しい花を付けるので、中国の人は古くから椿に親しんでいました。で、椿は花期が長く耐寒性に優れているという性質から、「色褪せない(不変の)愛情」の象徴となったのです。また、雲南省を始めとする中国南方の少数民族では、椿は「愛情」や「求婚」のシンボルなのだとか。雲南省の少数民族族の若者は、意中の相手に一束の椿を送って恋心を伝えるそうです。

 他にも、椿と同属の茶は「幸福な結婚生活」を象徴するものとして、江蘇こうそ地方では結納に絶対に欠かせない品だとされているのだとか。


 お次は松やヒノキ。ついでにこれまたヒノキは、中国語では扁柏、柏などと書き表すようですが、椿同様ヒノキはヒノキで通します。

 で、松やヒノキは真冬であっても力強く緑を保つことから、中国では試練に耐えぬく「節操」や「不老不死」を象徴する植物だったようです。が、この性質から「苦難にも変わる事なき愛」を表す植物だともされていたようです。


 三番目は菖蒲しょうぶ。菖蒲は日本でも端午の節句の魔除けとしてなじみ深い植物だけれど、株全体に漂う独特の芳香や剣状の葉から、中国でも悪疫や邪気を退散させる霊草だとされていたそうです。また、強くかつしなやかな葉の性質から、葉を編んだものは座具(蒲席ほせき)や寝具(蒲床ほしょう)として使われてもいました。で、こういったことから菖蒲は「安定・安民(人を安心させる)」の象徴とされ、加えて男女や夫婦の堅い絆の比喩として用いられるようになったのです。

 そのためなのか、菖蒲は男女の離れがたい安定した仲を表す縁起物として、唐代では納采の品の一つとされていたそうです。菖蒲の花には群生しているところを見たり人から送られたりすると富貴の子を産む、という信仰もあったそうなので、婚礼にはもってこいの植物だったんですね。

 ※ちなみに唐代の納采の品は菖蒲を含めて九つあります。そのうち合歓は合歓木の回を参照していただくとして、朱葦しゅい九子蒲きゅうしほは「心が自由に屈伸するように」との願いが込められています。嘉禾かか(大きな稲)は「福を分ける」、阿膠あこう乾漆かんしつは「にかわや漆のように離れがたい仲」、双石そうせきは「夫婦の礎の固いこと」、綿絮めんじょ(絹糸)は「妻の柔和な心」、長命縷(魔除けを付けた五色の飾り紐)は「長生き」をそれぞれ象徴してたのだとか。


 他、菖蒲や同属の石菖蒲せきしょうぶは、漢方では鎮静や胃腸の病気、冷え性などの治療に用いられます。それだけでなく、皮膚につく病原菌を抑制する効果もあるので、民間では浴用剤としても用いられたそうです。それだけでなく、五月から七月にかけて咲く花を長期間服用すれば、髪はいつまでも黒々としていて、寿命も延びるという伝承もあったそうな。

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