水仙

 今回はよく公園とかに植えられている水仙についてです。ま、「よく」なんて言っても、私の地元ではそうだというだけの話なのですが。というか、都会の公園に植えられている草花や街路樹って、私の地元のような田舎のとは違うのでしょうか……。


 水仙はヒガンバナ科スイセン属。水仙という名前は中国の古典に由来していて、水辺に育って、仙人のように寿命が長く、また清らかな風情であることから付いたのだそうです。原産地はスペイン、ポルトガルを中心とした地中海沿岸。水仙はそこから中央アジアを経て中国へと伝来し、さらに日本へと伝わったのですね。

 なお、水仙は古くから中国で親しまれてきた花ですが、六朝(3~6世紀)には雅蒜がさんという名で知られていたという説もあるものの、いつ頃に伝わったのかは正確には不明だったりします。

 ただ、前の章で時々触れていた唐代の怪奇百科事典的な書物・酉陽雑俎ゆうようざっそで、水仙とは呼ばれていないものの水仙と考えて間違いない、払林国ふつりんこく(東ローマ帝国)から齎された花について言及されています。なので、水仙が中国に伝わった時期の下限は唐代、それも酉陽雑俎の著者である段成式だんせいしきが生きた九世紀ごろでしょう。


 水仙といえばだいたいは白や黄色の花を冬から花にかけて咲かせますが、無論それ以外の色の花を付ける品種もあります。また、花弁も一重だったり八重だったり、色々です。で、中国では花弁や副花冠ふくかかん(筒状に出っ張っている部分のこと)の形状から、単弁六裂の金盞銀台きんさんぎんだい(銀台は白い花弁を、金色の盞=副花冠を乗せる銀の台に見立てたことから)と、重弁十二裂の玉玲瓏ぎょくれいろう(百葉・千葉水仙)の二系統に分類されるそうです。そしてこの二系統の水仙は、福建省にある夫婦の夫の金盞が金盞銀台に、妻の百葉が玉玲瓏と化したという伝説があるように、夫婦の花とされています。


 ところで、水仙は冬に咲く数少ない花であることから、また甘く爽やかで気品のある匂いからも正月に飾る花として好まれているそうなのですが、中国においてもまた春節にふさわしい花だとして親しまれてきました。前述の芳香に加え、台、玲瓏という名が、めでたいものとされたのです。中国の人は年の瀬が近づくと花市から泥付きの水仙の球根を買ってきて、春節に金盞銀台と玉玲瓏のどちらの系統の花が咲くかで一年の運勢を占ったり、生まれて来る子供の性別を占う風習があるそうです。金盞銀台が咲けば男の子、玉玲瓏だったら女の子が生まれるということでしょう。


 上記のように二系統セットで夫婦の花とされている水仙ですが、その本来象徴するところは「妻・女性」だったそうで、実際にとある怪異小説集には水仙の精が女性の姿を取って現れた、という話が収められているそうな。

 しかし水仙が表すのはただの女性ではなく、閨秀けいしゅう――学問や芸術の才がある女性のみ。これは、楚々として清らかな風情や芳香が、神秘的な仙女のイメージと結びついたためでしょう。そのため、水仙を漢女かんじょ洛神らくしんといった河の女神になぞられることもあったそうです。

 ちなみに、中国三国時代は魏の初代皇帝曹丕の同母弟で、類まれな詩才があった曹植は洛神賦らくしんふという作品を残しているのですが、ここで詠まれている河の女神は曹植が密かに想いを寄せていた曹丕の妻で二代皇帝の母、絶世の美女でもあった甄氏しんしの姿がイメージされている……とも言われています。

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