木瓜

 今回は、木瓜もっかについてです。今回に限り、木瓜とかいて「ぼけ」ではなく「もっか」と呼んでください。

 中国語の木瓜とは、広義では日本で言うカリンやマルメロまたは貼梗海堂ちょうきょうかいどうを、狭義ではカリンのことを指しています。ちなみにカリンは中国語では木瓜ムウクワの他、古くは榠楂めいろぼう木梨もくりと呼ばれていました。同様に貼梗海堂は木桃ムウタオ、マルメロは木李ムウリイ榲桲おつほつと呼ばれていもいました。何が言いたいのかと言うと、広義の木瓜を指す名称多すぎってことですね。


 木瓜は酸味が強いし触感的にも生食に向いていないのですが、蜜煎みつせん(シロップ煮)やドライフルーツとしては好まれていたようです。よくカリンのエキスを配合されたのど飴が売られていることからも分かるように、薬効があるとされていたこともあり、食用・薬用として古くから親しまれた植物だったようです。


 また、木瓜は強い酸味があることから、この章ではおなじみの擲果に使われてもいました。加えて、木瓜の古い名称の一つ「マオ」は「マオ」と通じ、木瓜は形が小瓜に似ていて、種子も瓜同様に多いことから、子孫繁栄のシンボルとされるにうってつけでした。

 他には、熟れた木瓜は非常にいい匂いを放つので、仏手柑や枸櫞クエン同様、香りを楽しむインテリアとしても楽しまれていたようです。


 ……前回同様、しかし今回はなんと約五百字にして語るべきことが尽きてしまいました。なのでこれまた前回同様、しかし今回は「中国錦繍」という本(中国錦繍展という展覧会の図録)から、中国の龍文様についてご紹介していきます。


 皆さんご存じでしょうが、中国では龍は皇帝の象徴でした。そのため、唐崩壊後の五代十国時代、契丹人の耶律阿保機やりつあぼきが建てた遼の八代皇帝の治世に、士庶の衣服に日、月、山、龍文様を用いることは禁止されました。そして以降、清朝に至るまで、ごくわずかの貴族高官を除いては龍文様の着用が禁じられていたのです。


 このようにかつて龍紋様はごく一部のみが着用できたいわば憧れの文様だったのですが、着用できる者の位階によって、龍の爪の数が定められていました。爪の数が明文化されたのは元朝から。元朝は、龍を「五爪二角者」と定義していたそうです。ただ元の一般の官吏は地位の上下に関わらず、四爪龍を使用できていたようですから、五爪の龍は皇帝や皇族の専用だった、ということでしょうか。ちなみに、はっきりそうだと結論づけられた訳ではないのですが、明治天皇の父・孝明天皇の今に残る袞衣こんえ(皇帝専用の服)の文様を参考にして、元以前の龍は三爪だっただろう、と考えられているそうな。

 で、元を滅ぼした明に時代が移り変わると、龍文様の着用の決まりはますます厳しくなっていったけれど、どうにかして龍文様を使おうとする官吏も多くなって、四爪龍をまんと称して用いるという抜け道ができました。そしてそのうち、五爪龍も蟒であるとされるようになって、龍と蟒の区別はあってないようなものになりました。また明の服制には、蟒の他の龍に似た文様として、三爪で二つの角が水牛の角のように内側に曲がっている「斗牛」、翼と前二肢があり、下半身は魚の尾もしくは鳳凰の尾羽のようになっている「飛魚」を定めています。

 上記のいきさつがあって生まれた蟒は清にも受け継がれていて、清の服制には五爪龍、四爪龍の他、五爪蟒や四爪蟒という記述があるそうです。

 ご参考までに、下記に本に載っていた、乾隆帝の命で定められた清朝の龍袍(皇帝や皇族、臣下が刑が行事などで着用した服)規則を……。

 

               色      文様(※龍以外の文様も用いる)

皇帝             明黄          九匹の五爪龍、十二章

皇太子            杏黄           九匹の五爪龍

皇子             金黄           九匹の五爪龍

一・二位の皇族       青(下賜された場合は金黄)  九匹の五爪龍 

三・四位の皇族、王族、   青、その他          九匹の五爪龍

(おそらく満州族)貴族

漢人貴族・一~三位文武官  青、その他          九匹の四爪龍

四~六位文武官       青、その他          八匹の四爪龍

七~九位文武官       青、その他   五匹の四爪龍(実際は着用しない)


 ※女性の場合は、皇后、皇妃を除いては既婚者は夫の、未婚女性は父の官位に合う袍を着用する。


 つまり、清代に皇族でも貴族でもないのに九匹の五爪龍文様の服を着ているのがばれたら、〆られていたということですね!

 

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