柘榴

 今回は甘酸っぱい味と宝石のような実が魅力的な柘榴ざくろについて。

 柘榴はミソハギ科ザクロ属の落葉低木もしくは小高木で、六月ごろに朱赤の美しい花をつけ、秋に甘酸っぱい実を付けます。柘榴の実は革のようで厚い殻に包まれていて、その皮で下の多くの種子を守っているのです。ことことから、柘榴はキリスト教美術では「教会の庇護の下の人々の結束」、また赤い色から「イエスの受難」を象徴しています。

 ちなみに、以下の神話から、柘榴は復活と再生の象徴でもあります。


 豊穣の女神デメテルの愛娘ペルセポネ(結婚前は乙女コレーと呼ばれていたらしい)を妃にしたいと望んだ冥府の支配者ハデスは、最高神ゼウス(※ペルセポネの父でもある)の許可を取って、ペルセポネを冥府に攫った。しかし母親であるデメテルは兄弟たち(※ゼウスもハデスもデメテルの兄弟である)の勝手な振る舞いに激怒し、大地に恵みを齎すという仕事を放棄した。ために地上は荒れ果ててしまい、とうとうゼウスはハデスにペルセポネを母の許に戻すようにと伝えた。デメテルは娘の帰還を喜び、大地には再び恵みで溢れたが、実はペルセポネは冥府で柘榴を数粒口にしていた。

 冥府の食物を摂取した者は冥府に住まわねばならないと定められている以上、経緯はどうあれペルセポネは再び冥府に戻らなければならない身である。しかし、デメテルは取り戻した娘を冥府に再びやってなるものか、と抗議をする。そこでゼウスは、ペルセポネを口にした柘榴の粒に対応する数の月だけ冥府にやることとし、残りは地上で母と暮らさせると決定した。デメテルは娘が冥府に下っている間は、大地に恵みを齎すのをやめるようになり、こうして「冬」がこの世に生まれた。


 という訳です。ペルセポネが冥府に行くと冬になる。言い換えればペルセポネが帰還すれば春が訪れるということなので、復活と再生に結びついたのですね。なお余談ですが、柘榴はギリシア神話の結婚の女神で、ゼウスの姉妹で正妻である、夫の浮気に対する嫉妬で有名なヘラの象徴でもあります。ちなみに、ゼウスたちの残り最後の姉妹・炉(かまど)の女神ヘスティアは永久に純潔を守ると誓った永遠処女神です。


 話しが中国から大分逸れていましたが、柘榴は漢代には中国に伝わっていたそうでうで、一つの実に無数の種子を忍ばせるという性質から「多子」や「子孫繁栄」を表す吉祥の植物とされています。なんでも、子房にびっしり詰め込まれた種子を子供や子孫に見立てた「榴開百子りゅうかいひゃくし」「榴開見子りゅうかいけんし」「百子同室ひゃくしどうしつ」などと呼ばれる寓意図もあるそうな。それだけでなく、前のほうでまとめた萱草と柘榴を合わせて男児誕生と子孫繁栄を願う「宜男多子ぎだんたし」、多寿を表す桃(桃は邪気を払い、長寿を齎すとされていたからでしょう)、多子を表す柘榴、多福を表す仏手柑(詳しくは次回で!)で「三多図」という伝統的な柄があるそうです。こういう情報があると、中華風の話の中で主人公や相手の家に飾る絵の主題や、茶碗の模様とかに困らなくていいですよね(そのためにまとめている)。

 また、柘榴は実だけでなく花も愛されていて、東晋の民間の歌には柘榴が愛の花としてやりとりされていた様子を歌ったものがあるそうです。


 最後に今回のスペシャルサンクスを

・ナツメ社 「聖書」と「神話」の象徴図鑑

 西洋における柘榴が表す意味をまとめる際に参考にしました。

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