紅豆

 紅豆こうとう? なんだそれ? 小豆とどう違うの? と皆さんはお思いになったでしょう。かくいう私も、紅豆なる植物を初めてしった時は、同じ反応をしました。

 紅豆とは別名、相思子そうしし相思豆そうしとう)、郎君豆ろうくんとう鴛鴦豆えんおうとうと呼ばれ、古くから男女の情愛の象徴とされている植物です。中国語で相思シィァンスーとは「恋」を、郎君は「(妻が夫を呼ぶ際の)あなた」、鴛鴦おしどりはこれまで述べてきたように夫婦和合を意味します。

 

 これまでも何度かあったように、中国で紅豆と呼ばれ、指輪に腕輪、首飾り耳飾りといった女性用の装身具の他、枕の詰め物、器に盛って飾り物としても利用されていた豆は、以下の三種があります。


(1)相思子(Abrus precatorius 和名:トウアズキ)

 東南アジア原産の、蔓性の多年生草本または木本。小豆のような形の硬く艶やかな赤い豆は、基部の三分の一ほどが黒味を帯びていて、美しい。そのため、英語でRosary peaローザリーピーと呼ばれているように、ロザリオの材料(ビーズ)として、マラカスの材料として使われているが、猛毒が含まれている(相思子に穴をあけている最中、針で指を刺してしまったら死んでしまった……という事件があるくらい)ので取り扱いには要注意。殻が堅いので呑みこんでしまっても噛み砕いていなければ大事に至らないことが多いらしいが、用心するに越したことはない。


(2)紅豆樹こうとうじゅ(Ormosia hosiei)

 陝西せんせい、湖北、四川省などに分布する、木本の落葉高木。豆の形は小豆と大豆を足して二で割ったような感じで、色は小豆と似たような赤。


(3)海紅豆かいこうとう(Adenanthera pavonina L. 和名:ナンバンアカアズキ)

 相思樹そうしじゅ孔雀豆くじゃくとうとも呼ばれる、木本の落葉高木。実は心臓のような形をしていて、色と艶はまんま小豆。皮膚病や肌の黒ずみに効果があるとされ、美顔剤や浴用剤の原料として用いられていた。ちなみに、アメリカデイゴという花の和名は海紅豆カイコウズ だが、多分関係はない。


 とまあこんな感じです。(1)の相思子、特にいいですよね~。一粒に致死量の毒が含まれているってところが。紅豆は上記で述べたように男女の愛情の証とされてきたのだから、その愛の証で結ばれぬ定めの恋人たちが命を絶つようなことがあったら、なんだかロマンチックじゃないですか? ただし、物語の中の話ならば、ですが。そんな事件が現実に起きたら、痛ましいことこの上ない……。


 紅豆の実は唐代以降から同心結の紐飾りやハンカチとともに、恋人同士が愛の証として贈り合う「定情ていじょう信物しんぶつ」として大いに用いられてきました。紅豆を愛の証として贈り合う際、貴顕やお金持ちの間では膏油こうゆに漬けて贈られることもあったようです。油に漬けて贈られる豆が相思子だったら、油に有毒成分が溶け出しているのではないか、とヒヤヒヤしてしまいますね。

 紅豆は恋文の代わりに恋う相手にそっと渡したり、投げつけたりして、秘めたる想いを伝えるアイテムとしても活躍していました。想う相手に投げつける紅豆の実は、恋の血の涙に例えられてもいたようです。それはともかく、好きな子に中々素直になれない・つい意地悪言っちゃう系の少年がある日いきなり、顔を真っ赤にしながら紅豆を好きな子に投げる様子を目撃しちゃったら、萌え萌えしちゃいますよね。

 

 他、紅豆は古くから遠くへ旅立つ恋人や夫などに、愛情のしるしとして贈られていたそうです。また、前の方で挙げた装身具・枕の詰め物飾り物の他、「相思の想い(恋情)が骨身に沁みる」にかけたのか、博打やゲームに使う玉や牙骨製の賽子の目に紅豆の実を象嵌したものがあったそうな。

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