茘枝

 ライチ ラライチ ララライチ

 という訳で、今回はあのチョー美味しい果物・茘枝ライチについてです。ちなみに冒頭のフレーズは、私が好きな漫画「ライチ☆光クラブ」から。


 ライチはムクロジ科レイシ属に分類され、主に中国南部(福建、広東、広西、雲南、四川)や台湾やインドシナ半島など、亜熱帯の地方で栽培されています。ライチは温暖な地域じゃないと枯れてしまうのです。しかも、ライチの鮮度や風味は落ちやすい。

 そういえば私が今読んでいる本「劇場都市 古代中国の世界像」によると、漢の武帝は長安に大量のライチを植えさせたけれど当然ことごとく枯れてしまったので、世話係を殺したそうです。ひどいですね! 


 ライチは古くからその風味のため好まれてきた果物なのですが、上記の性質により、長安などの北方でライチを味わうには、南からの貢納に頼るしかない。それとて多くは乾ライチや蜜煎(砂糖漬け)としてだったというから、玄宗がライチ好きの楊貴妃のため、民の田畑を横切り荒らし時に通行人を馬蹄にかけてまで新鮮なライチを届けさせたという逸話のハンパなさが窺えます。そういえば某大手通販サイトも乾ライチを扱っていましたが、一袋で三千円ぐらいと高価だったため、買うのはやめにしました。ずっと気になってはいるのですが。もしもこの先気が変わって乾ライチを買ったら、ここに味の感想を書いておきますね。


 さて。ライチは害虫が付きにくく、年をとっても実を結ぶことから、めでたい果樹だとされてきました。更に、その実がまるまるとしているところから「円満」に、茘枝リイチ(lìzhī)もしくはライチの実・茘子リイツ(lìzǐ)が、立子リイツ(lìzǐ 子を儲ける、の意)と通じるところから、「夫婦・男女の円満な仲」「子孫の誕生」という花卉語が生まれました。

 昔の中国の民間の結婚式では、合巹ホウチンに臨む新婚夫婦の寝台の周囲に魔除けの品々(盆に持った果物)をまき散らし、夫婦が仲睦まじく添い遂げられるようにと祈願する「撒帳サーヂャンという儀式が行われていたのですが、ライチはこの儀式でほぼ必ず用いられていたそうです。

 上述の魔除けのための縁起の良い果実は「喜果シーグゥォ」といい、時代や地域によって差はあるけれど、棗、栗、蓮子はすのみ、花生(落花生)、ライチ(もしくは同じムクロジ科で、茘枝奴の異名を持つ龍眼)の五種類のことが多かったそうです。これらは、組み合わせるとツァオとライチ、もしくは栗子リイツで「早立子ツァオリイツ」――早く子供ができますように、蓮子リィェンツ桂円グゥイイェン(乾した龍眼)で「連生貴子リィェンショングゥイツ」――立派な子供が続けて、たくさん生まれますように、という意味になるから。ただし、喜果の原型が現れた漢代にはライチはまだまだ貴重品だったので、ライチが喜果の一つとなったのは漢より後の時代のことなのだとか。


 最後に、ライチはその寓意と風味から、これまで何度か述べてきた擲果に用いられることもあったようで、小説ではしばしばそんな情景に出会えます。他、器に盛ったライチの実をそれとなく意中の相手に贈って、自分の胸の裡をほのめかす……なんてこともあったようです。

 

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