葫蘆
葫蘆は食用にされる(ユウガオは干瓢の原料ですものね)他、果皮は食器・水入れとしてだけでなく、小舟や浮袋、楽器の材料としても様々に利用されてきました。なんでも長江・黄河流域では現在も大型の葫蘆が渡し舟の代用とされていたりするのだとか。これは神話伝承の話ですが、中国の少数民族に伝わる洪水型兄妹始祖神話では、やがて人類の祖先となる兄妹・
ちなみに、洪水型兄妹始祖神話とは、読んで字のごとく洪水を生き延びた兄妹(母と息子のパターンもあり)が地域の人間の始祖となって繁栄した、という沖縄~中国西南部~台湾~インドシナ半島~インドネシア~ポリネシアらへんに伝わる神話です。大体、環太平洋の南の方に伝わっているってことですかね。
ところで、洪水によって一度世界が滅んだという神話は広範囲(皆さんご存じだろうノアの箱舟だけでなく、アステカ神話にも世界を滅ぼした大洪水の話はあります)に存在しますから、洪水型兄妹始祖神話はもっと大きな枠組み――例えば「大洪水神話」の類型の一つ、と捉えることもできるかも。「大洪水神話」のうち、洪水後の世界の始祖となったカップルが肉親だったら、洪水型兄妹始祖神話に分類する、とか。でもそしたら、ギリシャの場合はどうなるんでしょう? ギリシャ神話の洪水後の世界の始祖は、いとこにあたるのです。プロメテウスの息子のデウカリオンと、プロメテウスの弟エピメテウスとあのパンドラの娘のピュラーが、新たな世界の始祖になったのですから。ただし、全ての人間がデウカリオンとピュラーの子孫という訳ではありません。
水が引いた後、「母の骨を撒け」という託宣を「母の骨とはつまり、大地の骨。石のことだ」と解した夫婦が投げた石のうち、デウカリオンが投げた石は男にピュラーの投げた石は女になり、こうして世界には石から生じた人間の子孫とデウカリオン・ピュラー夫妻の子孫が誕生したのです。古代ギリシャ人は、自分たちはそのうちデウカリオンとピュラーの長子のヘレンの子孫――ヘレネスだと自称していました。
で、なぜ私が長々と一見関係ないギリシャ神話の話をしたかというと、中国少数民族に伝わる伏羲と女媧の神話と興味深い類似が見られるからなのです。
世界に二人だけになってしまった伏羲と女媧はしかたなく夫婦となったが、やがて生まれた子は目鼻も手足もない奇形だった。怒った伏羲が子を粉々に砕いて大地にばらまくと、不思議なことに欠片が落ちた所から煮炊きの煙が昇り始め、こうして世に再び人間が満ちた。これが、ある中国少数民族に伝わる洪水型兄妹始祖神話です。
・ギリシャ神話→洪水を生き延びた男女が、母の骨=大地の骨=石を投げて人間が生じる
・ある中国少数民族の神話→洪水を生き延びた兄妹にして夫婦の片割れが、子の肉片をばらまいた所から人間が生じる
この類似は、死体化生神話(興味がある方はユミル、ティアマト、プルシャについてググってみましょう!)と対比してみても、結構興味深いですよね~。中国にも、
葫蘆(瓜も含む)は種子が多く、蔓で絡みながら長く伸び、しかも蔓の先端ほど大きな実が成るため、「多子」や「子孫繁栄」、ここから発展して「愛情」の象徴になりました。これは瓜の話ですが、中国では葫蘆や瓜類の種は食用にされるため、愛情表現として西瓜や南瓜の種(仁)入りの茶を相手に進める、なんてことがあったようです。民間の情歌では、一粒ずつ自分の舌で割った瓜の種を相手に贈る、というシーンが唄われたりもしていました。更に、
ちなみに、中国では新婚の夜、夫婦が交わす固めの盃を「
余談ですが、中身を取った後の壺状の果皮は、子宮や胎内に比せられ、女性器の暗喩とされることもありました。ちなみに、
葫蘆はこのように子宝と非常に縁深い植物なのですが、生命を生み出す葫蘆は一方で全てを呑みこむ、「魔除け・悪魔祓い」のための魔法のアイテムでもありました。孫悟空にも、そんなアイテム出てきましたね! これは一見矛盾しているようですが、生命を生み出す神はまま死をも司っているのです。
ということで、中国では葫蘆が諸々の禍や罪を吸い取ってくれることを期待し、立春や端午の節句に赤い布を葫蘆の形に切って胸に懸けたり、門口の扉に張る風習がありました。その他、葫蘆は女性や子供が魔除けとして佩びた護符や匂い袋のデザインとしても人気があったのです。
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