今回は東洋を代表する神聖な花・蓮です。蓮といえば、私が通っていた高校にはお濠があり、夏になると蓮の花が咲く様子は極楽浄土を連想させ、何やら清浄な気持ちになったものです。たまに腕が痛くなるぐらい容赦ない量の課題出してくる学校でしたけどね!


 私の高校の話はこれまでにして、とにかく蓮といえば皆さんも「神聖・清らかな」イメージを抱いていませんか? ところで蓮の原産地はインドですが、蓮はヒンドゥーの性典では女陰の象徴だといいます(同じく薔薇も女陰の象徴だったりします。ちなみに百合が純潔の象徴であることをご存じの方は多いでしょうが、百合は一方で男性を象徴していたりもします。ヒント:花や蕾の形)。そう考えると、ヒンドゥー教の最高神の一柱にして創造神であるブラフマーが、維持神ヴィシュヌの臍から生えた蓮から生まれたと伝える説があるのも不思議ではないですよね。

 また、古代インドでは女性を四つに分類してランク付けしていたのですが、その最高位は蓮女パドミニと呼ばれてもいました。このように、蓮は清純なだけでなく結構エロティックな側面もある花で、それは中国においても同じだったのです。中国の民間では、蓮は妖艶でエロティックな花だったのです。美女に化けた蓮の精が人間の男と逢瀬を重ねる……なんて説話もあったり。花弁が多い品種の蓮が、花弁の重みを持て余すように咲く様子は、確かになまめかしい。だから皆さん、ぜひ「蓮 八重咲き」で画像検索してみましょう!


 このように妖艶な花・蓮の花卉語は以下のようなものになっています。が、その前に、蓮の詳しい名称をご紹介していきます。

 現代日本に生きる私たちは「蓮」という文字を見たら花も茎も葉も(水中にあって見えないけれど根も)全部ひっくるめてイメージします。ですが、中国では全体、もしくは部位ごとにそれぞれを指す名称があって、


ハス全体→芙蓉ふよう芙渠ふきょ

 花→菡萏かんたん

 葉→

 茎→

 泥の中の若い茎→みつ

 子房(花托)→れん

 果実(蓮子はすのみ)→てき

 果実の胚種→よく

 根茎(蓮根)→ぐう ※藕もまた全体を指すことがある。


 となっております。「蓮」というのは、本来は蓮コラで有名な花托を指した文字だったのです。でも、いつしか全体を指して使われるようになったのだとか。

 蓮の名称の話も終わったので、本題の蓮の花卉語に入りますね。


(1)愛情・恋心

  上記のように元々はハスという植物の花托を指していた「リィェン(lián)」は愛情や恋を意味する「リィェン(lián)」と発音が同じ。「lian」と発音される中国語には「物事の連続」という基本的な意義があることから、相手への想いが続く感情=憐と、小さな孔が連なった子房=蓮が結びついたのだとか。最初の方で述べたように、「採蓮」は「採憐」つまり、ラブハントを意味します。また、想う相手に恋の仲立ちとして蓮を贈る風習もあったようです。本で例として挙げられていたエピソードでは、女性が男性に蓮子を贈っていました。


(2)和合・男女の睦み合い

 ハス全体を意味する「ホウ(hé)」は「ホウ(hé)」「ホウ(hé)」と発音が同じ。更に、蓮には前述の「連続」という寓意もあることから、「子宝を沢山授かる」という連想に繋がります。このことから、蓮は結婚道具や、春節の際に飾られる版画・年画のモチーフとして好まれてきました。蓮の他に結婚道具のモチーフで有名なのがおしどり夫婦の鴛鴦おしどりですが、鴛鴦貴子えんおうきしつまり鴛鴦と蓮の組み合わせは「仲良しカップルから子供が次々生まれる」という二重の意味でおめでたい図になります。

 また、中国では一つのがくに二つ以上の花が付いた蓮の変わり咲きを瑞祥としているけれど、そのうち並頭蓮へいとうれん双頭蓮そうとうれん)は、男女が仲睦まじく頭を並べて共に寝るという非常にセクシャルな寓意を含んでもいます。


(3)仲良い二人・未練心

 意外なことに、美味しいけれど見た目が美しいとは言い難い蓮根にも花卉語があります。「オウ(ǒu)」は恋人・配偶者を意味する「オウ(ǒu)」に通じることから仲が良い二人、また蓮根を折る糸(藕糸ぐうし)が伸びることから未練心という花卉語が生まれたそうです。

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