茉莉花

 茉莉花とはジャスミンのこと。ジャスミンと言えば、某ディズニープリンセスを思い出してしまいますね。今回の内容には全くもって関係ありませんが。茉莉花は中国では長江以南に三十種ほどが自生しているのですが、元々はペルシャやイランの原産で、陸路や海路で中国に齎されたのだそうです。なんでも、晋代(265年~420年)の書物には、既に茉莉花についての記載があるのだとか。


 茉莉花は初夏から秋に、夜開性の香りがよい白い花を咲かせます。この匂いは、特に南方では夏の夜の蒸し暑さを和らげる役目を果たしました。それゆえ上は宮廷から下は民間まで、茉莉花は庭苑に植えられたり、切り花もしくは盆栽として室内に飾られたり、柱に掛ける香嚢こうのう(匂い袋)などの季節を感じさせるアイテムとして人々に愛されたそうです。なんでも南宋(1127年~1279年)の避暑用の宮殿の庭には数百本もの茉莉花や素馨ソケイ(茉莉花と同じ属の花。花の時期は春と、茉莉花よりも早い)が植えられていて、夜風が吹くと花の香りが宮殿中に漂ったのだそうです。ロマンチックですね。

 

 茉莉花は、ジャスミンティーとして、お肌のお手入れ用の香料・髪油・美顔水の原料として親しまれてもいました。茉莉花の蒸留液(花露かろ)には美容効果があるとされていたのです。また中国には古代から、香り高い草花を魔除けや装飾として身に着ける風習があったことから、茉莉花は髪飾りや首飾りとしても用いられていました。

 上記の風習は漢代の、南越(現在の中国南部~ベトナム北部にあった国)との国境地域で見られたようですが、唐代以降は益々盛んになりました。南宋の時代には茉莉花を髪に挿したり髷に巻き付けたりするファッションが流行し、上流婦人は金銭を惜しまず茉莉花を買い、香りを楽しんだそうです。

 南宋の上流婦人の心を掴んだ花・茉莉花の香りは遊里のお姉さま方の間でも大人気でした。ただ、妓女の脂粉の香りと入り混じった茉莉花の香りは淫蕩でもあり、「茉莉花は日中は閉じていて、夜になると妓女の髪に咲くのだから、ゲスな花だ」なんて否定的な評価も下されていたりします。私は、そんなことをあげつらうなんて小さい人間だなあ、と感じてしまいますが。綺麗な花はどんなことに利用されていても綺麗なのに。


 このように賛否両論あったりしますが、茉莉花はなくてはならないぐらいに中国女性に愛されてきました。このことを指して、明代の著名な文人が「茉莉花は女性の眷属(一族)である」と述べるぐらい。これはつまり、茉莉花は女性の心強い味方であるということです。そんな女性の味方・茉莉花はだからなのか求愛、それも特に女性から男性への、の象徴でもありました。具体的には、想う相手に恋心のシグナルとして贈られたり、花の開き具合で恋が上手くいくかどうかを占われたりしていたそうです。

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