中国を代表する植物として真っ先に挙げられるのは、やはり梅。中華文化圏における梅のイメージは、概ね以下のように分けられます。


1.「歳寒のちかい」「君子・逸人・隠士」

 厳寒にも負けず、毎年良い香りの花を咲かせることから、「不屈の精神」「俗世を超越した」ということをイメージ。


2.「花のさきがけ」「東(春)風第一枝」:早春のシンボル

 早春、百花に先駆けて開花する梅の性質に由来する。花魁かかいは梅の異称でもあります。また江南地方には、早咲きの梅を「春の便り」「友誼・友情」の証として贈る風習があったそうです。ただ、北方には梅を早春や友情の証とする習わしは無かったそうな。


3.「氷肌玉骨ひょうきぎょっこつ」「暗香疎影あんこうそえい」:梅の美しさを讃える

 「氷肌玉骨」は美しい女性を指す四字熟語ですが、「氷肌」は氷のように透き通った肌と、厳寒の時期に咲く梅の花のどちらともを指します。

 「暗香」はどこからともなく、もしくは闇の中漂ってくる花の香りのことで、多く梅の香りを差します。「疎影」は、疎らに映る樹々などの影のことで、多くは梅に対して使われています。氷肌玉骨も暗香疎影も、梅の美しさをイメージした言葉です。字面からもそんな感じがしますよね。氷のような肌の美人には、確かに梅の花がよく似合う。


 さて。上記のイメージから鑑みると、梅のイメージが「俗世を超越した清らかなもの」で固定されてしまいそうですが、梅は恋の仲立ちをする、呪力を持つ植物、また「1」のイメージから転じて「どんな苦難にも負けない不変の恋心・愛情」の象徴でもあったのです。


 恋の仲立ちをする植物としての梅と深く関係するのが、前回ご紹介させていただいた擲果てきか。古代中国では、梅の実が熟する頃に適齢期の若者たちが男女に分かれて梅林に並ち、女性は好ましいと思う相手に梅の実を投げて想いを伝えようとしていたのだとか。ただ中国はとても広いし多くの少数民族がいるので、擲果は現在の中国の領域のどこででも行われていた風習ではないだろうな、と何の根拠もないながら考えています。

 ただ、湖南省・広西チワン族自治区・貴州省(いずれも中国南方)に住まうトン族には、未婚の男女が意中の相手に梅ではなく楊桃やまももを投げ合って結婚相手を決める儀式があるそうです。なので、擲果は漢民族に特有の風習でもないと思います。擲果(=果物を投げて恋心を伝える)風習は中国南方付近に起源があって、段々北上していったのでは。果物が投げられるぐらい多く収穫できるのは、やはり南方だろう……と考えてみても、根拠がないからどうしようもない。擲果は歌垣うたがき(特定の日時に適齢期の男女が集まって、恋人を探す風習)とも何か関係がありそうなものですが……。


 さて。前回述べたように、古代の中国語では同じ発音の語は共通の概念を持つ同族語とされていたのですが、古くは某・楳と書かれていたメイと同じ発音の語には「媒(男女の仲を取り持つ)」「腜(妊娠した兆し)」「禖(子授け祈願の祭り)」があります。つまり昔々の中国では、梅はまさに男女の結合や子授けと非常に深い関係を持つマジックアイテムだったのです。そのため梅の実は、相手に投げて恋心を伝えたり、密会の合図として利用されていたそうです。また実だけではなく花も、恋人たちの愛を伝えるために多く手折られてきたのだとか。


 

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