社交・人間関係 ①

 前回までは唐代の結婚生活のあれこれについて色々述べてきたのですが、ここでもう一つ。唐代では、官僚夫人たちには社交の習慣があったようで、例えばこんな笑い話が残っています。


 時は唐代。山南(湖北省)のある県令の妻・伍氏は、夫の部下の妻たちに会った際に、姓を尋ねた。すると尋ねられた婦人は「陸と申します」と、また次の夫人は「漆と申します」と応えた。

 すると伍氏は怒って自分の部屋に入ってしまった。そこで夫が慌てて理由を尋ねてみると、伍氏曰く「私の姓が伍(五と同じ発音)だから、みんなして陸(六と以下略)だの、漆(七と以下略)だのと、揶揄ったに違いありません! 他の方の姓は訊いていないけれど、きっと八だの九だのと応えたに決まっています!」と。

 県令は大笑いして、人にはそれぞれ姓があるからそんなことはないよと、すぐに客人のところへ行くよう妻をたしなめた。


 と、いうように、唐代のセレブな奥様たちは、奥様同士の交流もしていたんですね。だからこそ、こんな笑える偶然が起きる。こうした官僚の妻同士の交流は、夫の仕事の助けとなり、官界の人間関係をスムーズにすることを目的にしていたそうです。夫の方が、妻に同僚や部下の妻を招待するよう命じることもあったそうな。それに、その第一の目的は夫の仕事を助けるためだったとはいえ、誰かを招いたり、誰かの客となれたということは、唐代のセレブ妻たちの社会的位置は結構高く、完全に家に閉じ込められている訳ではなかったのです。


 唐代で奥様方が交流しあっていたのは、当然上流階級だけではありません。庶民の女性たちはむしろ、セレブ妻よりも独立的・積極的に助け合っていたのです。敦煌文書によると、唐代では「女人社」という民間の女性だけの、自発的に組織された結社も存在していたそうな。

 女人社の参加者はほとんど隣近所同士の女性たちで、メンバーは各自結社の経費を提供し、普段から姉妹のように接しあうのはもちろんのこと、メンバー本人やメンバーの親族が亡くなれば葬式の準備を手伝い、メンバーの誰かが困った事態に陥れば互いに助け合う誓いを立てていました。また、正月になれば君主の恩恵と平安に報い、父母の息災を祈るための儀礼のために、めいめい粟を一斗と灯油一皿を出していたそうです。

 女人社には、規約や罰則事項もありました。もしもメンバーの誰かが長幼の序を弁えなかったり、たしなみを忘れて宴席で口論や乱闘に及んだり、先輩の忠告に耳を傾けなかったら。メンバー全員が違反者の家に押しかけ、罰として一席設けさせ、御馳走になったそうです。こんなのは何だか楽しそうだれど(御馳走を用意するのも大変だけど)、もしもメンバーの誰かが結社から抜け出そうとした時の罰はキツイものでした。なんと、メンバー全員が抜け出そうとした者を三度ずつ棒で叩き、罰として一席設けさせていたそうな。なお、会から抜け出そうとして罰を受けた女性が抜け出せたかどうかは不明です。


 以上の事例は、敦煌文書の中に記載されていたもので、時代的にも五代十国時代に入っていた頃の者ですから、唐代に無数に存在していただろう女人社のひとつひとつの規約に一言一句違わず当てはまるものではないでしょう。だけど、だいたいの結社の規約の概要は、こんなものだったのではないでしょうか。

 女性だけの秘密結社とか、なんだかワクワクしますよね! こういう結社や、結社内で起きた事件、その裏側に隠れた人間関係のもつれなんかを創作で出してみるのも面白いかも……と、創作のためのネタ集らしいことを言ったところで今回は失礼いたします!

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