唐代の女の悲哀
大分長く続いたこの章も、今回で終わりです。なので今回は、総まとめ的に唐代の女性にはありふれていた不幸について述べていきます。
まず、これまで述べてきたような自由を赦されていた唐代の女性たちでも、男性と同じように扱われたわけでは全くありませんでした。
出産の際は、生まれたのが女の子だと聞けば、母親は母子ともに無事なのを良しとする。だけど、男が生まれたと聞けば、母親は産みの苦しみも忘れてにっこり微笑む。そんな内容の文書が、残されているそうです。ただ、楊貴妃が玄宗の寵愛を一身に受けていた頃は、「男を生んだからって喜ぶな。女を生んだからって悲しむな。女の子だって家の誉れになれるのだから」というような歌が流行ったそうなのですが、これは裏を返せば、普段は女の子は……。
こうして生まれた女の子は、教育課程ではもちろん、法律上も兄弟たちとは著しく差別されていました。唐代の法律では、女性には親の財産を相続する権利がなかったのです。娘たちが与えられるものといえば、ほんのちょっとの嫁入り資金だけ。
ただ、その家が男の相続人がない=跡継ぎが絶えた「戸絶」と認められれば、娘も財産を受け継げました。しかし、この権利は法律で定められたものなのに、実際に認められるまでは結構な手間がかかったそうです。
なにはともあれ、無事生まれて成長して適齢期に差し掛かった娘は、特別な事情がなければいずれ誰かの妻となります。ただその夫婦関係も、やっぱり妻は夫に比べれば著しく不利な立場に置かれていました。法律上は、夫が妻を棄てても何の問題もなかったけれど、妻や妾が夫を棄てれば二年の徒刑に処せられていたのです。
さらに、私が今読んでいる「隋唐帝国」という本によると、唐代の律令制では、被害者と加害者の尊卑(親族関係の世代の上下)と長幼(年齢の上下)によって罪の重さが変わっていたので、夫(上の者)が妻(下の者)に暴力を振るって怪我をさせた場合は同じ身分の他人同士の場合よりも減刑されていたのに、逆の場合は罰を重くされていました。というかそもそも、同じ喧嘩の訴訟でも、男女では課される罪の重さが違っていて、男は減刑だけど女は増刑だったのです。
なお、唐代の律令制は、尊卑長幼制の他に、良賤制、官僚制を特色としています。官僚制については皆さんだいたいお察ししていただけるかと思いますが、良賤制は分かりにくいと思うので、ざっくりとした説明を。
唐代では、人々は良人と賤人の二つのランクに分かれていました。また賤人の間にも、様々なランクがありました。そして、異なるランクに属する者の間に事件が起きた際は、尊卑長幼制と同じく被害者と加害者の属する社会的地位によって刑の軽重が分かれていたのです。つまり、上(良人)が下(賤人)を害した場合は同種間場合より軽く、逆の場合は重くなる。
……私はここで一つ厭な想像をしてしまったのですが、婢とかが主から襲われても、本気で抵抗とかできなかったんじゃないでしょうか? だって、主にうっかり怪我をさせ、当たり所が悪くてその傷が元で主が死亡、なんてことになってしまったら。そしたら、自分も殺される(部曲・奴婢が持ち主である良人を殺害したら、斬刑に処されていました)かもしれないのですから。力がある家の中には法律が介入できなかったそうですが、法律がこんな感じなんだから豪門に仕える婢じゃなくとも、唐代の婢の生活は悲惨なものだったでしょうね……。
死後も、女性は男性よりも軽んじられていました。だって則天武后が改めるまでは、父親が死んだら三年の喪(と言っても、ここで言う三年とは数えで、実際の服喪期間は25ヶ月です)に服すようにと定められているのに対して、父が存命しているのならば母が死んでも喪に服すのは一年でよいとされていたのですから。
唐代の女性に一つ救いがあるとすれば、儒教では女に「三従の教え」を強いているけれど、唐代では一般的に母親は息子に従うべきだとは考えられていなかったことぐらいですかね。むしろ、唐代の人々は母親に対する孝行の気持ちと従順さを非常に重視していて、高官や名士であっても母親を大事にしていなかったら免職されたり辞職させられたりしていたし、士大夫の世界からは事実上追放されていました。
色々と苦しみ多かっただろう唐代の女性の生活。だけど彼女たちは、何だかんだで強かに、そしてしぶとく生き抜いたんじゃないかなあ、と私はこの本を読み終わった時に思いました。
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