結婚 ②

 唐代は他の時代と比較すれば女が強い時代だったということは、このまとめで度々触れてきました。そしてその特徴は、結婚においても現れていました。なんでも敦煌で発見された文書によると、唐代では夫が妻を家に迎えるのではなく、夫婦が妻の実家で式を上げることも多かったそうです。こういう場合、妻は結婚後何年も経ち、子供を産んでも夫の家に行かず、ついに夫が妻の家の婿になることもあったのだとか。こういうところからも、唐代女性の家庭内での地位の高さが窺えます。


 さて。唐代は比較的礼や道徳に縛られないフリーダムな時代でしたが、それは言い換えれば貞操観念が希薄であったということでした。唐代では、未婚の娘のみならず、既婚の夫人が外に恋人を作って密通しているのも当たり前。どころか、既婚の女性が愛人を作ることは「よくある普通なこと」「風流なこと」で、恥とは見做されていなかったそうです。こんな感じなんだから、夫に先立たれた女性が愛人を作るのは当然のことでした。

 当時の上流階級の風紀は特に、大変乱れていて、皇帝の妃嬪が皇太子と怪しい関係になったりしていました。則天武后も、彼女は唐朝三代目皇帝の皇后ですが、元々はその父である二代目皇帝の後宮に入っていましたし。

 則天武后は二代目皇帝には寵愛されなかったけれど、後の夫であった当時の皇太子と密かに情を通じていた。だからこそ、二代目皇帝の崩御のために寺に送られた彼女ですが、宮中に返り咲くことができたのです。そして則天武后は自分が皇帝として即位すると、多くの男寵を抱え、自分の身の回りの世話をさせるための美少年を広く集めたのだとか。

 このように風紀が乱れきっていた社会では、公主が愛人や男寵を侍らせるのも決して珍しいことではありませんでした。もっと凄い場合だと、四代目皇帝の皇后は男寵を抱えていて、その醜聞は宮殿の外にまで知れ渡っていたそうです。凄いぜ、唐代の上流階級!


 とにかく、唐代は良くも悪くもフリーダムな時代だったので、離婚再婚も極めて一般的なことでした。

 唐代の法律では、妻が「七出」というものを犯せば夫は妻を離縁してよいことになっています。また、夫婦間あるいは親族の間に殺人や傷害事件が発生した場合は、必ず離婚しなければならなかったそうです。ま、事件まで起こしてしまった夫婦なんて、どんなに頑張っても上手くいきそうにないですからね。


 七出については以前にさらっと触れたのですが、折角なのでもう一度ご紹介していきます。


1.男児を産まない

 →息子が生まれないと、その家の祭祀が途切れてしまいますからね。

2.身持ちが悪い。淫乱である。

 →DNA鑑定ができない時代の父権制社会において、妻に貞淑さを求めない方が珍しいでしょう。

3.夫の父母によく仕えない。

 →儒教の国だから、仕方がない。

4.他人の悪口を言いふらす。

 →「中国社会風俗史」によると、時代は特定できませんが、「こんな義弟ならいない方がよい」と(恐らく義弟を)罵っただけで離縁された妻がいるらしいです。

5.盗みを行う。

 →同じく「中国社会風俗史」によると、漢代には庭に垂れてきている隣の家の棗を自分に食べさせたという理由で、妻を離縁した夫がいるらしいです。

6.嫉妬深い。

7.悪い病気にかかる。


 以上が「七出」でした。しかし、たとえこの七出に当てはまっていても、離婚してはいけないとされる妻が世の中にはいました。


・夫の父母の葬式を主催し、また夫の父母の喪に共に服した妻

・嫁いできてからは立派な女性になった妻

・離婚しても帰る家がない妻


 こういった妻たちは、離婚してはならないとされていたのです。ですが、この条件に当てはまらない妻たちは、簡単に離婚されていました。例えば、何年たっても子供ができなかったり、父母が嫁を気に入らなかったり。はたまた、嫁が奴婢を叱る声を義母が不快に思ったり、嫁に命じた織物が想像通りでなかったり、義母の前で嫁が犬を大声で叱ったり……。後半の理由は思わず「マジで!?」とツッコんでしまいそうになりますが、マジでこんな理由でも離婚が許されていたそうです。理不尽。

 なお、唐代の離婚で最も多い理由は「夫が容色衰えた古女房に飽き、新しい妻を欲しくなった」だったそうです。出世し、富と権威を得た男が、糟糠の妻を捨てたり。なんでも農民でさえも、その年の麦の収穫が例年より百斗多かっただけで妻を換えようとしていたのだとか。

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