妾たち ②

 前回詳しく述べた媵と妾は、名目上は共に主人の配偶者でした。だけどその関係は正式なものではなくて、「妾を買う」(当時、妾を家に入れることは「買う」と表現されていたそうです)ことと、妻を娶ることは決して同じ意味ではありませんでした。唐代の人たちは、妾がいても自分は未婚だと言っていたそうです。

 あと、唐代では妾と客女※を妻にすることも禁じられていました。破ると、徒刑(受刑者を一定期間獄に繋ぎ、労働させること)一年半となっております。厳しいですね! ただ、ある大貴族が晩年に妾を妻にしたために世間から非難された……という記録が残っているそうなので、その妾を余程愛していたのなら、罰を覚悟で破る者もいたのでしょう。ちなみに、妾を妻にすることが禁じられていたように、婢を妾にすることも禁じられていたそうです。なぜなら、妾とは良民がなるべきものだったから。でも、唐代の法律では妾と客女は同列の存在として扱われているそうです。それに、妾は良民がなるものとされていたとはいえ、多くは娼妓や役者の出だったとか。でも妾たちの中には、一般の良民の家庭出の女性も少なからず存在していたそうです。


要するに


 妻>媵>妾>婢


 のような感じだったんでしょうね。まあでも、「偉い人に寵愛されている妾」と「ド庶民の正妻」だったら、市場で喧嘩とか起きた場合には、周りの人は偉い人の妾の方の味方するんでしょうけどね、きっと。それに、主人が富裕だった場合は、妾たちも一般よりも遙かに贅沢な暮らしができたので、一概に「妾は妻の下!」と言い切ることはできないでしょう。


 ※

 「唐宋時代の家族・婚姻・女性 つまは強く」という本によると、唐代の賤民は法律上、部曲と私奴婢という二つの階級に分かれていました。なお、部曲は「賤民だけど売買の対象にはならない、奴婢よりも上位の存在」のことで、客女はこの部曲に属する女性のことを指します。が、これはあくまで法律上の区分であり、実際の生活でこの区分が用いられることは稀だったそうです。では、実際の生活では賤民をどのように区別していたのかというと……。


①「家」

・主人の家に丸ごと隷属し、傭のグループよりも密接な関係を主人と持っていたもの。彼らは法律上は私奴婢に該当し、売買の対象ともなりうる。私たちが「唐代の奴隷」と聞いてイメージする者に近いのはこちらの方でしょう。ただし、法律の規定と現実は往々にして乖離しているもので、ある程度の資産を持つ者もいた。また、このグループの賤民を「売買」したと記述されても、実際は雇用や質売りだったこともあるらしいです。


②「傭」「客」グループ

・主人に雇用され、衣食などの世話をされているものの、主人とは一定の距離を置いていて、ある程度の私有財産と家族を有するもの。部曲から、貧しい良民までを含む。彼らの大部分は自分たちを良民だと認識していたが、国家や主人には賤民と同様の存在と扱われていた。現代に置き換えると、住み込みの使用人や労働者のようなものでしょうか?


③その他


 と分けられていて、①と②が混同されることはなかったそうです。


 さて唐代の広い意味で言う妾には、「姫妾」「妓妾」とも称される姫侍・家妓がいました。彼女らの多くは元々娼妓(中には夫がいたのに強奪されてきた者もいたりした)で、その地位は妾より更に低く、主人の配偶者という名分もなく、ほとんど婢同然に扱われていたそうです。婢と違うところがあるとすれば、家事労働をしなくてもいいことぐらい。でもその代わり、主人だけでなく、もてなしとして主人の客人の床にも侍らなければならなかったそうです。

 一般に妾は主人の配偶者であり、他人にやたら見せるものではないと思われていたので、妾が主人の客の接待を命じられることはなかったでしょう。でも妾より位が低い存在である姫妾は、やらなきゃならなかったんですね。ただ一つ姫妾たちが他の女性たちより自由なことがあったとすれば、唐代は男女関係にオープンな時代であり、なおかつ主人が老いたり病気になったりすると姫妾たちを解放して他所に出す風潮があったから、主人の死後に別の男の所に行ったり、再婚したりしても世間からは全く非難されなかったということぐらい。


 とはいえ、妾も姫妾と同じでやっぱり正式な配偶者でないことには変わりなく、たとえどんなに寵愛を受けても、また主人の息子を産んでも、その家の一員には決してなれなかった。

 妾たちは主人の意のままに売買できる財産だったから、主人の気まぐれで他の者に譲渡や転売されたり賭けの対象にされたり、はたまた主人より力がある者に強奪されたりして、身の自由は全くありませんでした。当時の価値観では、愛妾は良馬と同じ値打ちで、「愛馬を馬に代える」ことは豪快な行動だと称賛されていたとか。それに、生殺与奪権は完全に主人や主人の家族に握られていて、酷い虐待を受けたり、殺されることも少なくなかったそうです。あと、主人に殉死させられることもあったそうな。

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